この作品は18歳未満閲覧禁止です

  • テキストサイズ
片時雨を抱きしめて
第3章 第三章 記憶



先生はまた困ったように笑って、
「もうすぐ着くから、ね」
とだけ言った。

私はもう何も言えなくて、うん、とうなずいた。
これ以上、苦しくなるのは嫌だった。

五分ほど黙り込んだまま歩き、着いたのは先生に拾われたあの道筋だった。
暗くてよく見えなかったけれど、この辺りは見覚えがあった。
まったく知らない町並みだと思っていたけれど、暗くてわからないだけで、
あの雨の日、私はそんなに遠くには行っていなかったのか、と思った。

「ここ」
「うん。昨日のところ」
「昨日、ありがとう。先生に会ってなかったら、死んでたかも」
「ばかなこと言うな。もうすんなよ」

先生は怒ったように私をキッとにらみつけると、そのあと柔らかく笑った。
この人はどうしてこんなにも、柔らかく笑っていられるんだろう、と思った。

「こっから、自分で帰れる?」

構えていた言葉が、私の聴神経を通っていく。

「ひとりで、帰れる? 靴と上着、あげるから」

やわらかい笑みをうかべたまま、先生の声はこわばっていく。

_____やさしい、拒絶の気配がする。


「うん」

そんな風に、言われたら。
私はうなずくしかないじゃないか。

「また、月曜日」

先生は片手を少しだけあげて私の背中を見送った。

「うん、ありがとう、先生」

そのやさしい拒絶を避けるように、私は足早にその場所から去った。
少し歩けばもうそこは家の近所だった。
私はあてもなく町を歩いた。風はまだ冷たい。春の匂いは、まだしない。



/72ページ
無料で読める大人のケータイ官能小説とは?
無料で読める大人のケータイ官能小説は、ケータイやスマホ・パソコンから無料で気軽に読むことができるネット小説サイトです。
自分で書いた官能小説や体験談を簡単に公開、連載することができます。しおり機能やメッセージ機能など便利な機能も充実!
お気に入りの作品や作者を探して楽しんだり、自分が小説を公開してたくさんの人に読んでもらおう!

ケータイからアクセスしたい人は下のQRコードをスキャンしてね!!

スマートフォン対応!QRコード


公式Twitterあります

当サイトの公式Twitterもあります!
フォローよろしくお願いします。
>コチラから



TOPTOPへ