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片時雨を抱きしめて
第3章 第三章 記憶
「なにそれ、本当なの」
先生の声が硬くなる。私の肩にある手に力が入っていくのがわかった。
「連絡して。俺から帰ってきてもらうように言うから」
先生が声を荒げる。
________怒って、いるんだ。
「だめ、」
私は声の震えをやっとのことで抑えて低く言う。
それは、だめなの、先生。
「なんで、
じゃあほかに頼れる大人はいるのか、
身寄りのないお前を、かくまってくれる大人はいるのか」
「いない、いないよそんなの。でも、」
でも_____、
先生にはきっと___、いや、先生だけじゃない。
あたりまえに、当たり前の、普通の家庭で育った人にはわからない。
愛されて、その愛が当たり前だと信じて疑わずに生きてきた人には、わからない。
悲しくて、苦しくて、心から憎いのに、
それでも______私はママのことを、嫌いになんてなれない。
私のそばを離れて、好きな人と一緒に住んで、
きっとすごく、ママはすごく幸せになる。私が居てできなかったこと、私がいたから奪われたこと、当たり前の幸せ、女として愛される幸せを_____、また私が奪ってしまうのは、嫌だ。
「わかって、先生」
ママを幸せに、してあげたいの。
先生があきれたように息を漏らす。
「わかった、
俺からは何にも言わないから。綿谷が自分で、考えて」
先生の切れ長な目が私を捕らえる。
「そのかわり、」
先生が続ける。
「しばらく俺ん家いて」