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蕾は開き咲きほこる
第5章 楽しい時間
「わざわざ、すみません」
車に乗り込んで真っ先にお礼を言うと、普段の課長に戻っていた。
「桜子さんは気さくで優しい人なんですけど意外と強引なんですよね。勝手に決めて押し付けて、本人に悪気はないんですけど……悪気がない分質が悪いというか何というか。まぁ、そこが桜子さんの良いところでもあるんでしょうけど。なのでこんな時は言うことを聞いておくのが一番なんです。なので坂上さんが気にすることではありませんよ」
桜子さんを擁護する言葉と、お互いの事を良く分かっているような物言いに、なぜだか心がチクッと痛んだ。
それからはあまり話すこともなく……というか、桜子さんのお店では色々と話すことができたのに課長とふたりっきりになると途端に口数が減り緊張して話せなくなる。
課長も課長で運転に集中しているのか話さない。
お互いに話さなくなった車内はシーンと静まり返り居心地の悪い感じがした。
そもそも、桜子さんが間にいないだけでこうも違うものなのかと思うと、またしても心がチクッと痛んで苦しくなる。
そんな得体も知れないモノを心の中に飼いながら車は雨の中を自宅に向かった。