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第6章 噂の美人

週末の金曜日

日が陰り出した頃、大学の講義を終えた長坂佑奈はアルバイト先の居酒屋に向かっていた。

将起と悟史に抱かれたあの日以来初めてのバイトである。

佑奈は今日のシフトに入っているメンバーを把握していなかったが、店が最も賑わう金曜日の為、将起と悟史のどちらかは少なくとも入っているだろうと想像した。

佑奈は裏口の従業員用のドアの前で一瞬立ち止まる。
一度深呼吸をすると、ゆっくりとドアノブに手を伸ばした。

ガチャ

佑奈がドアを開けると店長の杉田が目の前で仕込みの準備をしている所であった。
杉田は都内に何店舗から店を構えているこの居酒屋グループで雇われの店長として働いていた。既婚者で今年40歳になる。
小学生の子供がいると聞いていた。

佑奈「おはようございます」

杉田「お、長坂さんおはよう！今日は予約多めで大変だけどよろしくね！」

佑奈「はい、こちらこそよろしくお願いします」

店長への挨拶を終え、佑奈は厨房の中をそれとなく見渡す。

厨房内に店長の他に二人の姿が見えた。
一人は二十代後半のフリーターの佐藤。
佐藤は5年以上の経験があり、応援で他の店舗にもよく行かされていた。そのため佑奈もまだ一度しか会った事がなく、ほとんど面識がない。

もう一人は大学２年になった19歳の田所。
大学では農学部に所属していて、野菜や果物の栽培方法の研究を行っているらしい。
ややぽっちゃりとした体型で眼鏡をかけている。
田所は皆にその体型をときおりいじられていた。

１週間でもっとも忙しい金曜日なので、さすがに余裕がある人員配置となっていた。

どうやら悟史は今日はシフトに入っていないようであった。

佑奈は厨房内で一通り挨拶を済ませて更衣室へ向かう。

そのタイミングで一人のホールスタッフが対面から歩いてきた。

「おはよう」

声をかけてきたのは、あの将起だった。