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遠き記憶を染める色【完結】
第9章 少女には見えた
「海に犯されたって、魚じゃないの?サダト兄ちゃんは、潮の流れに乗った魚の群れに”あそこ”突かれて…。出ちゃんたんでしょ、あの…、精子」
「ははは…、そういうあけっぴろげなとこ、全然変わんないなあ。まあ、そうなんだけど、今の年になってから思うと、海だよ。水…。その捧げものにされちゃったんだってね。オレ、あの時にさ…」
「…」
ここでも流子は何となくだったが、彼の話していることには意味不明という訳でもなかったのだ。
「それで何が自分の中で変わったかって言うと、どうやら、人の愛し方と自分が望む愛され方をが変わった感じがするんだよ。その二つも分けてしまってるような…」
「でも、人間の女性を愛せるんでしょ?愛してもらいたいのも海じゃなくて人間にでしょ、お兄ちゃん?」
この時の流子は何しろ、サダトを理解してあげたかった。
彼が海に落ち、潮に引きこまれたその現場に居合わせた自分としては、何が何でも海が潮の流れが…、水が、思春期の少年にどんな変化を与えたのか…。
変な言い方、流子自身、自分にはそれを知り得る義務があり権利もあったと思えたから…。
***
「もちろんだよ。人間に変わりないもん、オレ(笑)。でもさ…、いろんな意味合いでだよ。少なくともひとつじゃ、満たされたことにならないと思う。守りたい気持ちや刺激し合いたい気持ち…。でも、最終的に捧げる気持ちがテッペンだろうってさ」
「私は?」
流子はずばりと彼に問うた。
「流子ちゃんは守ってあげたい存在だよ。少なくとも今は」
「その立場で愛してくれてるの?」
「愛してる」
「なら、それでいい。ここでキスして」
二人は唇を重ねた。
しばし目を閉じた流子とサダトの耳と心には、穏やかな波の音が溶け込んでいく。
磯の海辺での淡い接吻…。
それは神聖な儀式のようでもあった。