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遠き記憶を染める色【完結】
第38章 その後…
「流子…、今年は去年の上狙えるでしょ?」


「そうね、先生やOBもえらく期待してるよね。県大会の決勝とかも夢じゃないって…」


「うん。それにサダトさんの件で時の人になったから、世間からの熱いエールも受けてるし、彼女、やってくれるんじゃない?」


「何しろサダトさんのことがあった後、流子の泳ぎ、明らかに変わったよ。水をかく足の開きと腰の入り込みがダイナミックになったし」


「言えてる。流子自身も水と一体になってる実感がするって。レースでプールに飛び込むと、まるで水に抱かれて気持ちがグーンと上り詰めちゃうらしい」


「すごいわ!流子、もしかしたら千葉代表で全国の切符手に入れちゃうかもよ」


水泳部の同僚、A子とB美は流子の平100M県大会出場に熱き期待を寄せていた。
そしてその翌月…、流子は見事、県大会同種目の決勝に進んだ。


その予選最終レースの時だった…。
首位で泳ぎ終え、顧問の先生がプールサイドでガッツポーズ、観客席では水泳部の仲間やOB・OGが飛び上がって大喜びしていたのだが…。


***


「…あれ?流子、プールから上がんないじゃん。気分でも悪いのかな?」


レースが終わり、ほかの選手はすべてプールサイドに上がっていたのだが、流子だけがまだ水の中から出ようとはしない…。
心配した顧問の先生と大会の係員がプール脇まで駆けて行った。


「潮田、大丈夫か!具合でも悪いのか?」


「いえ…。なんでもありません。先生、もうちょっと、水の中で息を整えさせてください」


彼女は左手をプールサイドに置き、右手は水の中だった…。


「ああ、わかった…」


先生と係員は目配せして、まずは安心した。


”ハア、ハア、ハア…。ああ、イク…!”


彼女はプールから上がっても、しばらくはまだ肩で大きく息をついていた。
その姿は流子が決勝を賭けて、全力で泳ぎ切った雄姿に見えことただろう。
誰もが…。


潮田流子…。
レースを終えた後、水の中でインターバルぎりぎりまで息を整える名選手として、その後水泳界に名を残こすることとなる…。




ー完ー


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