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遠き記憶を染める色【完結】
第19章 懐かしい”妹”の部屋で
「じゃあ、サダト兄ちゃん、2階に行こう」
「ああ…、うん」
流子は母の絶妙のフリを逃さなかった。
「浜人君はいっぱいごちそう食べて、それからね」
流子の叔母、海子はすかさず遊び盛りの幼稚園児、浜人の胸の内を先読みして、フォローを忘れなかった。
”海子おばちゃん、ナイスだよ。サンキュー!”
流子は目で海子にそう伝えた。
***
「やっと話できるね。…ごめんね、せわしくて」
「いやぁ…、最後の日、みんなにあんな席まで用意してもらってさ、感激だよ。でも、流子ちゃんとは二人でまだな…。でもさあ…、この部屋、めちゃくちゃか懐かしいなあ…」
「はは…。まあ、座って」
流子もサダトも、せっかく久しぶりに会ったのだから、できれば子供の頃の懐かしい話をもっとしたい…、そんな思いだったろう。
だが、今の二人には話し合うべきこと、確認し合うことがあった…。
***
「…でさあ、そっちも部活とか忙しいと思うんだけど、なるべく早く来れるかい?」
「うん!ちょうど合宿終わって、二学期に入れば秋の県大会に向けて部活休めないから、夏休み中に行くよ、お兄ちゃん…」
「悪いね、流子ちゃん…」
「サダト兄ちゃん!」
「…その時、キミにしか渡せないものを託すつもりだよ」
「…」
その時、流子は直感した。
短い時間ながら迷った末、彼女はここでサダトに聞き質す決心に至った。
それは…。
これからの二人にとって、どうしても今、はっきりさせねばならないことであったのだ…。