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遠き記憶を染める色【完結】
第3章 凱旋するカレ
凱旋するカレ



「こら!いい加減にしろよい、鮎男よう…。とにかく、こんな田舎に縁故のある子がよう、テレビ出て頑張ってるんだかんねえ…。戻ってきたら、いっぱいご馳走してやって、のんびり息抜きさせてやったらいいんだよう。それで、東京戻って、また元気に頑張ってもらってねえ。…流子、あんたも水泳の部活で忙しいとこすまねえが、長野の合宿から帰ったら、サダトに会ってやってねえ…」


さすがに事実上、潮田の家を取り仕切っている枝津子のこういった親族への訓読には重みがあった。
流子はこのおばあちゃんが大好きであった。


「はい。おばあちゃん…、私、サダト兄ちゃんが本家へ着いたら、時間見計らって電話しますから」


「おお、わるいねえ…。ひとつ頼むよ、流子」


「はは…、でも思いだすわねえ。ここで、ほんの小さいころ、流子ちゃんとサダトちゃん、まるで兄妹のように遊んでおったもんねえ…」


海子は煙草を咥えながら、間続きになっている畳の10畳間を振り返って目を細めていた。


***


まさに流子が小学生の頃、都内に住んでいたサダトは、母親の姉の嫁ぎ先だったこの大岬へは、毎年夏休みの半分近くは泊りがけで遊びにきていたのだ。


都会育ちの遊び盛りであったサダトは、海が近く、自然がいっぱいな南房総がとても好きだった。
東京へ帰る頃は、きまって真っ黒になって、流子と別れを惜しんでいたななあと…。
この場にいる面々は、”それ”をまるで昨日のことのように思いだしていたのだ。


そして、そのサダトが芸能界のイケメンアイドルとして”凱旋”することで、彼らは自分自身よりも、子供の頃、最も近しかった流子との再会を熱望していた。


それはある意味、この千葉南端の大岬ですくすく育った年頃の娘流子を当地の代表として、テレビで活躍するアイドルと肩を並べさせたいという願望であったのかもしれない。





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