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異邦人の庭 〜secret garden〜
第5章 ペニー・レーンの片想い
「…私に勝ち目はないですね…。
お兄ちゃまはきっと生涯、お母様に生き写しの母を愛し続ける…」
…だって、お兄ちゃまにとって、お母様は唯一無二の存在だから…。
徳子が手にした白いスワトウのレースのハンカチで、紗耶の涙を優しく拭う。
「…さあ、それはどうかしらね?
人生には思いがけないことが次々と起こるものですからね」
「…大お祖母様…?」
「…私がそうよ。
旦那様を愛していると思っていたのに…ある日突然、落とし穴に落ちたように、恋に落ちたわ…」
「大お祖母様…⁈」
紗耶は耳を疑った。
徳子は、今、何と言ったのだろう?
眼を見張る紗耶に、徳子は優しく笑いかけた。
「遠い遠い昔話よ。
天国の旦那様もきっと許してくださるわ。
…だって、私は今もこの高遠の家にいるのですもの…」
侍女の七重が、黙って二人の前に温かいショコラとホットワインを置く。
そのまま、音もなく姿を消した。
…ということは、七重も徳子の恋を知っているのだろうか…。
紗耶の心の内を読み取ったかのように、徳子は微笑む。
「…七重もすべて知っているわ。
奥様の秘密は、私が墓場まで持ってまいりますと言ってくれた。
…けれどこれで、私の秘密を知るひとは二人になった…」
「…大お祖母様…」
徳子は静かに窓辺に近づき、そっと窓を押し開けた。
…アルテミスのミルラ香の薫りがふわりと漂う。
春の宵に、それは切なく胸を締め付ける。
「…あの日も、こんな春の宵だったわ…。
スコットランドのマナーハウスには、それはそれは美しいさまざまなイングリッシュローズが咲き乱れていた…」
ミルラ香に誘われるように、徳子は語り始めた。
…心に秘められた甘く切ない、恋物語を…。
お兄ちゃまはきっと生涯、お母様に生き写しの母を愛し続ける…」
…だって、お兄ちゃまにとって、お母様は唯一無二の存在だから…。
徳子が手にした白いスワトウのレースのハンカチで、紗耶の涙を優しく拭う。
「…さあ、それはどうかしらね?
人生には思いがけないことが次々と起こるものですからね」
「…大お祖母様…?」
「…私がそうよ。
旦那様を愛していると思っていたのに…ある日突然、落とし穴に落ちたように、恋に落ちたわ…」
「大お祖母様…⁈」
紗耶は耳を疑った。
徳子は、今、何と言ったのだろう?
眼を見張る紗耶に、徳子は優しく笑いかけた。
「遠い遠い昔話よ。
天国の旦那様もきっと許してくださるわ。
…だって、私は今もこの高遠の家にいるのですもの…」
侍女の七重が、黙って二人の前に温かいショコラとホットワインを置く。
そのまま、音もなく姿を消した。
…ということは、七重も徳子の恋を知っているのだろうか…。
紗耶の心の内を読み取ったかのように、徳子は微笑む。
「…七重もすべて知っているわ。
奥様の秘密は、私が墓場まで持ってまいりますと言ってくれた。
…けれどこれで、私の秘密を知るひとは二人になった…」
「…大お祖母様…」
徳子は静かに窓辺に近づき、そっと窓を押し開けた。
…アルテミスのミルラ香の薫りがふわりと漂う。
春の宵に、それは切なく胸を締め付ける。
「…あの日も、こんな春の宵だったわ…。
スコットランドのマナーハウスには、それはそれは美しいさまざまなイングリッシュローズが咲き乱れていた…」
ミルラ香に誘われるように、徳子は語り始めた。
…心に秘められた甘く切ない、恋物語を…。