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異邦人の庭 〜secret garden〜
第5章 ペニー・レーンの片想い
…この方が…千晴お兄ちゃまのお母様…?
お母様に…そっくり…。
紗耶は写真立てを取り落とさないように必死で耐える。

驚愕のあまり言葉もない紗耶をじっと見つめていた徳子はやがて口を開いた。

「…千晴さんの母親…花織さんは紫織さんにそっくりでしょう?
名前まで、よく似て…。何の因果なのか…。
本当に…政彦さんが婚約者として紫織さんをお連れになった時は、驚きましたよ。
…花織さんが生き返ったのかと思ったわ…」
返事もできない紗耶に、徳子は密やかに近づく。
徳子の愛用の香水…ゲランのミツコが静かに薫る。

震える紗耶の白い手から、そっと写真立てを受け取り、マントルピースの上に戻す。
「…千晴さんが三歳の時に息子の千聖と花織さんは海外旅行中の列車事故で亡くなりました。
千晴さんはほとんど両親の記憶はないはずです。
…これらの写真以外は…」

…けれど…。

「…貴女のお母様を見た瞬間、千晴さんは恋に落ちてしまったようね。
私には直ぐに分かりましたよ。
千晴さんは、それからずっと紫織さんを思い続けてきたのです。
一途に…ひたむきに…」

徳子の言葉の一言一言が、胸に突き刺さるようだ。
「千晴さんは、けれど高遠家の因習や決まりごとも承知していました。
高遠家の当主は必ず一族の中から花嫁を娶らなくてはならないと…。
それに背く考えもなかった。
…なぜなら…」

徳子が紗耶を振り返る。
「紫織さんの娘の貴女がいたから」
紗耶の濃く長い睫毛が震える。
「…大お祖母様…」

「だから、私にはわかっていましたよ。
千晴さんが貴女を花嫁に選ぶだろうということは…。
それは、千晴さんの悲願であったのですからね…。
…貴女にとってはとても残酷なことだけれど、紫織さんの娘の貴女を妻に娶ることで、恋を成就させようとしたのでしょう…」
徳子の言葉は容赦なかったが、その声色はいたわりに満ちていた。

紗耶はマントルピースの上の写真を見上げる。

「…知っていました…。
千晴お兄ちゃまが母を愛していらっしゃることは…。
…私が母の身代わりで選ばれたことも…」
…でも…
声が我知らず震える。

「…千晴お兄ちゃまのお母様と母が瓜二つだなんて…知らなかった…」

…それでは、私に望みはないですね…。

紗耶の涙が、小さな白い手に水晶のかけらのように溢れ落ちた…。

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