この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
異邦人の庭 〜secret garden〜
第6章 ペニー・レーンの片想い 〜Lady Yの告白〜
数日後、慌ただしい様子で千智がネス湖から帰宅した。
いつも柔和で優し気な貌は緊張感に満ちていた。
「徳子さん。急遽日本に帰国することになりました。
日本領事館から連絡が入ったのです。
いよいよ開戦です。
港が英国軍によって封鎖される前にここを出なくてはなりません。
領事館公使が我々に便宜を図ってくれました。
急遽、北欧船籍の客船に乗船できることになりました。
これを逃したら、いつになるか分からない。
明日の早朝、ここを出ます。
必要なものだけを七重に纏めさせてください」
徳子は息を呑む。
明日?そんなに早く?
…いよいよ…帰らなくてはならない…。
日本に…。
アルフレッドと別れて…。
「徳子さん…。
…大丈夫ですか?」
肩に優しく手を置かれ、はっと我に帰る。
「…え、ええ…。大丈夫ですわ」
…千智様に気づかれてはならない…。
強張る頰で必死に笑みを浮かべる。
「徳子さんはこの地にご友人も多くおられた。
…とても別れ難いでしょうね…」
千智の優しい言葉が胸に突き刺さる。
「…千智様…。私は…」
長く濃い睫毛を震わせ、唇を開きかけたとき…。
背後から、侍女の七重が声を潜め、囁いた。
「…奥様。ただいまオルソープ男爵家の使いの者が…。
男爵夫人様からのお手紙でございます」
徳子は千智を見上げ、微笑む。
「レディ・イーディスからお別れのメッセージのようですわ。
失礼いたします」
いつも柔和で優し気な貌は緊張感に満ちていた。
「徳子さん。急遽日本に帰国することになりました。
日本領事館から連絡が入ったのです。
いよいよ開戦です。
港が英国軍によって封鎖される前にここを出なくてはなりません。
領事館公使が我々に便宜を図ってくれました。
急遽、北欧船籍の客船に乗船できることになりました。
これを逃したら、いつになるか分からない。
明日の早朝、ここを出ます。
必要なものだけを七重に纏めさせてください」
徳子は息を呑む。
明日?そんなに早く?
…いよいよ…帰らなくてはならない…。
日本に…。
アルフレッドと別れて…。
「徳子さん…。
…大丈夫ですか?」
肩に優しく手を置かれ、はっと我に帰る。
「…え、ええ…。大丈夫ですわ」
…千智様に気づかれてはならない…。
強張る頰で必死に笑みを浮かべる。
「徳子さんはこの地にご友人も多くおられた。
…とても別れ難いでしょうね…」
千智の優しい言葉が胸に突き刺さる。
「…千智様…。私は…」
長く濃い睫毛を震わせ、唇を開きかけたとき…。
背後から、侍女の七重が声を潜め、囁いた。
「…奥様。ただいまオルソープ男爵家の使いの者が…。
男爵夫人様からのお手紙でございます」
徳子は千智を見上げ、微笑む。
「レディ・イーディスからお別れのメッセージのようですわ。
失礼いたします」