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異邦人の庭 〜secret garden〜
第6章 ペニー・レーンの片想い 〜Lady Yの告白〜
「千晴お兄ちゃま、ただいま戻りました…」
帰宅の報告をしようと、千晴の居間の扉をノックする。
返事がない。
…もう、寝室に行かれたのかしら…。
扉をそっと押しひらくと…
千晴は長椅子に横たわり、静かに寝入っていた。

「…千晴お兄ちゃま…」
初めて見る千晴の無防備な…けれど端正な寝姿に、思わず見惚れてしまう。

どこからともなく現れた八重が、その厳しい貌に僅かな微笑みを浮かべ伝える。
「ずっと紗耶様をお待ちになっていらしたのですよ。
大奥様のところからなかなかお戻りにならないけれど、大丈夫かな…と気を揉んでおられました。
こんな千晴様を拝見するのは初めてです。
…千晴様は紗耶様のことになると、まるで少年に戻られたかのようです。
いつもはどのようなときでも冷静でいらして、決して慌てたりなさらないのに…。
どうやら、紗耶様は千晴様にとって特別な存在のようでございます…」
「…千晴お兄ちゃま…」
胸の奥がきゅっと締め付けられ、甘く疼く。

八重が退出したのち、紗耶はそっと千晴に近づく。
長椅子の端に座り、千晴を見つめる。
…繊細な彫像のように端麗で美しい貌立ちは、瞼を閉じていても明瞭だ。

その瞳は、鳶色で…恐らくは千晴の父親譲りなのだろう。

…大お祖母様のかつての恋の結晶…。
不可思議な…美しい奇跡のような話だった。
けれどその話に、紗耶は微かな憧憬すら抱いた。

そうしてふと、アルフィー・B・ソールズベリーが幾度かの短い結婚を経て、今は独身なことを思い出した。

…いつか、大お祖母様にお伝えしてみよう…。
それから
…いつか、あの恋の物語を読ませていただこう…。
とも思う。

「…ねえ、お兄ちゃま。
いつか、お兄ちゃまも紗耶だけを見つめて、愛してくださるのかしら…」
…お母様ではなく、私だけを…。

切なくも熱い願いを込めて…紗耶は静かに千晴の端正な額に、触れるだけのキスを落とした。
そうして、その引き締まった胸に、頰を寄せる…。
…穏やかな胸の鼓動…。
紗耶はそっと、眼を閉じる。

…私の恋は、まだ始まったばかりなのだ…。
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