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第7章 コーネリアの娘

…長く…永遠に続くかのように思われた甘く濃密な口づけは、名残惜しげに千晴が静かに終わらせた…。

「…今日は、ここまでにしておこう…。
そうでもしないと、紗耶ちゃんのすべてを僕のものにしてしまいそうになるからね…」
まだ熱情を秘めた鳶色の瞳が、じっと紗耶を見つめる。

「…お兄ちゃま…」
…私は…お兄ちゃまと結ばれてもいいと思っているのに…。
口には出せないけれど、本当にそう思っているのだ。
潤んだ瞳で、千晴を見上げる。

千晴の美しい貌が柔らかく綻ぶ。
…まるで、紗耶の気持ちを察したかのように…。

「…紗耶ちゃん…。
僕も君を抱きたくて堪らない…。
君の何もかもをこの手で奪い尽くしてしまいたい…」
…けれど…
と、もの狂おしく、千晴は紗耶を掻き抱く。
「…やはり、政彦兄さんとの約束を破るわけにはいかない…。
紗耶ちゃんを大切に思う兄さんを裏切るわけにはいかないよ…」
「…お父様…？」
「そう…。政彦兄さんは、多分この婚約と結婚に不安を持っているはずだ。
まだ人生が始まったばかりの紗耶ちゃんを、前時代の遺物のようなしきたりと因習で縛るような結婚を…。
それからこの家を…もちろん僕にも…大変な不安を感じているに違いない。
そんな兄さんを、僕は裏切りたくはない。
…だから紗耶ちゃんをもっと大切にしたい。
紗耶ちゃんがもっと…身も心も大人になるまで…。
政彦兄さんの信頼を得るまで待ちたいんだ」

…千晴の誠実な言葉に触れ、紗耶の心の中は温かな感謝の気持ちが静かに満ちて来る。

「…お兄ちゃま…。
…ありがとう…」
…自分だけでなく、父を尊重してくれているその気持ちが嬉しい…。

千晴の紗耶を抱く腕に一層力が込められる。
「…君を、誰よりも愛しているから…まだ、すべてを奪うわけにはいかないんだ」

…誰よりも…愛しているから…。

紗耶が何よりも聞きたかった言葉だ…。

「…お兄ちゃま…！」
紗耶の声が、喜びに打ち震える…。