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異邦人の庭 〜secret garden〜
第8章 ガブリエルの秘密の庭
庭の薔薇の手入れを終え、紫織は自室に戻った。

…そろそろラボに入って、教室の準備をしなくては…。
新しい香油の配合も試してみたいし…。

そのための身嗜みのために、ドレッサーに向かう。
柔らかな白いコットンのワンピースは紫織のラボでの制服のようなものだ。
ふんわりとカールした長く艶やかな髪にブラシを当てる。
化粧はあっさりと…けれどベースは丁寧に作る。
眉とアイシャドーは薄いブラウン系。
口紅は使わずに桜色のグロスのみ塗る。
出来るだけ、控えめな仕上がりにするのが教室での紫織のモットーだ。
…もともとの貌立ちが人形のように整っているので、あまり手を掛けると冷たい印象を与えてしまうからだ。

香水は、付けない。
アロマ教室では、自分の薫りが邪魔になってしまうからだ。

使ったプレストパウダーをドレッサーの引き出しに仕舞おうとしてうっかり、いつも使わない棚を開けてしまった。

…と、引き出しの奥に見えたルビー色のフロストの球体の香水瓶に眼が釘付けになる。

…こんなものを…まだ取っておいたなんて…。
紫織の美しく形の良い眉が顰められる。

見ぬふりをして、引き出しを閉じかけて…手が止まる。

少しの躊躇ののち、紫織の白い手が、ぎこちなく香水瓶に触れる。


…資生堂のミスオブ沙棗…。
既に廃盤になり久しい…けれどその芸術的な香水瓶からも妖艶さと神秘性が匂い立つ、資生堂の伝説の名香…
そして…

紫織は瞬きもせずに、香水瓶を手に取った…。

ひんやりとした擦り硝子の感触に、肌が懐かしむようにしっとりと馴染む。
…と、同時に幽かに甘い蜜のような…それでいてどこかスパイシーな梅の花や熟れた異国の果実のようなフロリエンタルな薫りが鼻先をふわりと掠めた…。

思わず苦しげに、小さく吐息を漏らす。


…それは遠い昔、紫織が初めて愛し、愛された男から贈られた唯一の香水であった…。
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