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異邦人の庭 〜secret garden〜
第10章 ビーカーとマグカップ 〜甘く苦い恋の記憶〜
…波の音が、聞こえる…。

寄せては返す波の音は、優しい子守唄のように、静かに紫織の鼓膜に馴染んでゆく…。

…そよ風が、紫織の髪を優しく撫でる…。
心地良い…。

「…紫織…」

紫織は反射的に瞼を開いた。
優しいそよ風…と思われたのは、温かな藤木の大きな手であった。

「…先生…」
清潔な朝の陽光の下、藤木が微笑みながら紫織を見下ろしていた。

「…おはよう、紫織…」
…釣られて笑いかけ、昨夜の出来事が走馬灯のように過ぎった。

咄嗟に紫織はタオルケットを頭から被り、布団に潜り込んだ。

「どうしたの?紫織?」
タオルケット越しに、男が尋ねる。
タオルケットを引き剥がされそうになり、思わず声を上げる。

「やだ…!見ないで…!恥ずかしいから…!」

男が小さく笑う。
「どうして?」
「…だって…。きっとひどい貌をしているわ…。
…昨夜…あんなに泣いたんだもの…」

…口にした瞬間、昨夜の一部始終が生々しく蘇る。


「…あ…」
脚の付け根や下腹部…そうして何よりも、藤木の性器を何度も受け入れた秘められた場所が熱を持って疼きだす…。

「…や…だ…」
紫織は自分の身体を抱くようにして、子どものように小さくなった。

「…まだ、痛い…?紫織…」
気遣うような優しい声が、届いた。

「…ううん…大丈夫…」
…もう、痛みはなかった…。
甘く疼くような痺れが残っているだけだ…。

「…最初なのに、無理をさせたね…。
ごめんね、紫織…」

タオルケットを愛撫するように撫でられる。

「…ううん…。いいの…」

…だって…。

紫織はそろそろと、タオルケットから貌を覗かせた。

…男と女が、あんなに何度も何度も激しく愛し合うなんて、知らなかったもの…。

「…紫織…」

…そうして、それが禁断の果実のように、味わったことがないほどに甘く美味なのだけれど、切ない味がすることも…。

…榛色の瞳が真近で微笑み、紫織のやや腫れた薄紅色の口唇にキスを落とした…。






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