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異邦人の庭 〜secret garden〜
第11章 ミスオブ沙棗の涙 〜甘く苦い恋の記憶〜
家政婦のカヨには、ちょっとコンビニに行ってくるとだけ言い残して家を出た。

正月三が日の人影疎らな電車を乗り継ぎ、紫織は藤木のマンションに駆けつけ、合鍵で部屋に入った。

「…先生…?」
おずおずと声をかけながら、廊下を進む。

…きちんと片付いたリビングに、やはり藤木はいなかった。

しんと静まり返った部屋は、身体の芯から冷え切るようにぞくりと冷たく、少なくともこの日は藤木が不在だったことを語っていた。

紫織は窓から外の駐車場を見下ろした。
…藤木のプリウスは、案の定停まってはいなかった。

「…どこに行ってしまったのかしら…」
紫織は途方に暮れた。

…ご実家の…諏訪に帰ったのかしら?
それならそれで、メールくらいくれるはずだわ…。
今日、一緒に初詣に行く予定だったんですもの…。

リビング、寝室、バスルームと慌ただしく見回ったが、手がかりになるものは何もなかった。

…ただ、紫織が下田で渡したマフラーは見当たらなかった…。

…マフラーをしていってくれたんだわ…。
いつも着ているコートや革靴もなかった。

…事件に巻き込まれていなくなったのではないわね…。
少しだけ、ほっとする。

…けれど…。

紫織はため息をつく。

部屋に藤木の愛用しているオリジナルフレグランスの薫りはしない…。

…ということは、昨日にはここから外出しているんだわ…。
薫りは大抵一日で消えてしまうからだ。

…急用が出来たとしても、私に電話もメールもしてくれないなんて…。

再び、紫織の胸に暗雲が立ち込める。

「…どこに行っちゃったの…先生…」

泣きたくなるような不安の中、呟いたその時…。

玄関のチャイムが、静寂を破るように鳴り響いたのだ。
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