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異邦人の庭 〜secret garden〜
第11章 ミスオブ沙棗の涙 〜甘く苦い恋の記憶〜
帰宅後すぐに蒔子は人払いをし、居間に亮介を呼んだ。
そうして、夫が唖然とするような提案をしたのだ。

「紫織さんは学院を辞めさせます。
そして京都の姉、曄子の元に預けることにいたします。
新しい学校ももう探してありますのよ。
私の実家、北山のそばにある聖ヘレナ女学院です。
全寮制の厳格なカトリックの学校で、聖ベルナデッタと同じくらいの進学校ですから、紫織さんの勉学にも差し支えないでしょう。
京都は優秀な大学もたくさんありますしね」
すらすらと、まるでツアーガイドでもするように事務的に述べる蒔子に亮介が眉を顰め、異を唱える。

「それはあまりに突飛すぎないか?
京都の曄子さんのところに預けるだと?
今のままで何か問題があるのか?
あの教師は退職するんだ。
紫織が転校する必要はないだろう」

蒔子は首を振る。
「このままでは駄目なのですよ。
紫織さんはきっと、私たちの眼を盗んであの男に会いに行こうとするでしょう。
より厳しい環境に身を置かなくては、二人の仲は断ち切れないでしょう。
姉も承知してくれましたわ」
「…しかし、それは…」
眼の中に入れても痛くないほどに可愛がっている紫織を京都とは言え、手元から離すことに亮介は難色を示した。

蒔子は薄い唇に、ひんやりとした微笑みを浮かべる。
「亮介さん。貴方は紫織さんに理想的なお婿様をお迎えしたいのでしょう?
家柄が良く資産家で頭脳明晰で将来有望な…。
…今の紫織さんに、そんな縁談が来ると思いますか?
人の噂話に戸は立てられないもの…。
東京にいたら、この醜聞はいつか伝わりますわ。
そうなったら貴方の仰る三国一の婿殿なんて、到底現れませんよ。
男は所詮は傷物の娘など、避けるものですわ」

亮介は黙り込んだ。
…腹立たしいが、妻の言うことも一理あるかも知れないと思ったのだ。
亮介にとって、最愛の娘の結婚は悲願であった。
亮介から見ても理想的な男に娘を添わせたいのだ。
頼もしく優しく…そして何より紫織を大切に守ってくれる男に託したいのだ。

…道ならぬ恋をして身も心も傷ついている娘に、父親の自分が出来ることは、それより他にないような気がするのだった。
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