この作品は18歳未満閲覧禁止です

  • テキストサイズ
異邦人の庭 〜secret garden〜
第11章 ミスオブ沙棗の涙 〜甘く苦い恋の記憶〜
藤木のマンションのエレベーターから転がり出ると、紫織は息を切らせながら藤木の部屋に駆け付けチャイムを鳴らす。
応答がない。
ドアレバーを回す。
…鍵は掛かっていなかった。
もどかしくドアを開け、叫ぶ。
「先生!」
玄関に入り、奥の部屋を見渡す。
紫織は茫然とした。

…家具は何ひとつなく、がらんとしていた。
白い壁だけが、眼に痛いほど突き刺さる寒々とした部屋だ…。

「先生!藤木先生!」
必死でその名を呼び続ける。

…不意に微かに空気が揺らめき、隣室から藤木が姿を現した。
黒いタートルネックのセーターにスラックス…。
黒いカシミアのコートに榛色のマフラー…。
先ほどの服装と同じだ。
紫織が贈ったマフラーを、まだしてくれていることに紫織はなけなしの勇気を振り絞る。


「先生!」
駆け寄る紫織に、藤木が鬱陶しそうに端正な眉を寄せた。
「何しに来た」
取りつく島もないとはこのことだ。
…まるで他人行儀…いや、それ以上だ。
厭わしいような冷たい眼差しを、藤木は紫織に投げかけて来る。

「先生…!
先生とちゃんと話したいの。
なぜ、こんなことになったの?
先生は…本当に婚約したの?」
…聞きたいことは山ほどある。
けれど、まだ信じられない。
これが現実なのか…。
悪い夢なのではないか…。

「ああ。婚約したよ。
昨年末だ。
見合いをしてね。もうすぐ、入籍する。
だから学院も退職して諏訪に帰る。
兄の病院に事務局長として勤務することになったんだ」
あっさりことも無げに言う藤木は、紫織の知らぬ藤木だ。

「…なぜ…?
何か事情があるんでしょう?
何があったの?
ねえ、教えて!
お願いだから、本当のことを話して!」
一縷の望みを賭けてその腕に取り縋る紫織を、藤木は煩げに冷たく見下した。

形の良い口唇が、皮肉めいた微笑みに歪められる。

「ないよ。
…あるとすれば、君に飽きたんだ。
それだけだ」

/789ページ
無料で読める大人のケータイ官能小説とは?
無料で読める大人のケータイ官能小説は、ケータイやスマホ・パソコンから無料で気軽に読むことができるネット小説サイトです。
自分で書いた官能小説や体験談を簡単に公開、連載することができます。しおり機能やメッセージ機能など便利な機能も充実!
お気に入りの作品や作者を探して楽しんだり、自分が小説を公開してたくさんの人に読んでもらおう!

ケータイからアクセスしたい人は下のQRコードをスキャンしてね!!

スマートフォン対応!QRコード


公式Twitterあります

当サイトの公式Twitterもあります!
フォローよろしくお願いします。
>コチラから



TOPTOPへ