この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
異邦人の庭 〜secret garden〜
第12章 ミスオブ沙棗の涙 〜遠く儚い恋の記憶〜
「…最初に言っておきますが、私は厳しいですよ。
教師と恋愛沙汰を起こした娘に同情する気はさらさらありませんからね」
京都府左京区北山の家に紫織が着くなり、曄子は言い放った。
…年の頃は五十を過ぎたくらいだろうか。
卵型の白い貌は蒔子によく似ている。
目鼻立ちは蒔子よりはっきりとして派手で、蒔子より陽性な印象がある。
けれど、その声はあくまでもつっけんどんな印象だ。
「はい、曄子叔母様」
紫織は座敷に正座したまま、真っ直ぐ曄子を見つめた。
「聖ヘレナ女学院は全寮制です。
大変厳格なカトリックの学校です。
学業不振や生活に乱れがあれば直ぐに退学になります。
土日休みで外出や帰宅が許されるのは日曜だけ。
日曜は必ずここに帰ってきなさい。
家事と、私の茶道教室の手伝いをしてもらいます」
「はい、曄子叔母様」
次々と繰り出される、おおよそ若い娘には憂鬱にしかならないような話にも紫織は貌色ひとつ変えない。
曄子は細い眉を上げた。
「しおらしいこと…」
紫織は薄く微笑った。
「…お母様と離れられるだけで、天国です…」
曄子は一瞬息を呑み、やがて小さくため息をついた。
「…母親のことを、そんな風に言うものではありませんよ…」
けれどそれ以上、咎めはせずに手を叩き、家政婦を呼んだ。
「家政婦を紹介します。
このひとも今日来たばかりなのですよ」
軽い足音ののち、障子越しに声が掛かる。
「…失礼いたします…」
その声に紫織は眼を見張り、勢いよく振り返った。
「カヨさん⁈」
障子が開けられ、涙ぐんだカヨの笑顔が覗いた。
「紫織さん…!
こちらの奥様が、カヨを呼び寄せてくださったのです。
…紫織さんがお寂しいだろうと…」
紫織の胸で泣き崩れるカヨを抱きしめ、そっと曄子を振り返る。
「…曄子叔母様…」
曄子はつんと顎を逸らし、仏頂面で答えた。
「別に貴女のためではありませんよ。
ちょうど、家政婦が辞めて手が足りなかったから来てもらっただけです。
勘違いしないでちょうだい」
教師と恋愛沙汰を起こした娘に同情する気はさらさらありませんからね」
京都府左京区北山の家に紫織が着くなり、曄子は言い放った。
…年の頃は五十を過ぎたくらいだろうか。
卵型の白い貌は蒔子によく似ている。
目鼻立ちは蒔子よりはっきりとして派手で、蒔子より陽性な印象がある。
けれど、その声はあくまでもつっけんどんな印象だ。
「はい、曄子叔母様」
紫織は座敷に正座したまま、真っ直ぐ曄子を見つめた。
「聖ヘレナ女学院は全寮制です。
大変厳格なカトリックの学校です。
学業不振や生活に乱れがあれば直ぐに退学になります。
土日休みで外出や帰宅が許されるのは日曜だけ。
日曜は必ずここに帰ってきなさい。
家事と、私の茶道教室の手伝いをしてもらいます」
「はい、曄子叔母様」
次々と繰り出される、おおよそ若い娘には憂鬱にしかならないような話にも紫織は貌色ひとつ変えない。
曄子は細い眉を上げた。
「しおらしいこと…」
紫織は薄く微笑った。
「…お母様と離れられるだけで、天国です…」
曄子は一瞬息を呑み、やがて小さくため息をついた。
「…母親のことを、そんな風に言うものではありませんよ…」
けれどそれ以上、咎めはせずに手を叩き、家政婦を呼んだ。
「家政婦を紹介します。
このひとも今日来たばかりなのですよ」
軽い足音ののち、障子越しに声が掛かる。
「…失礼いたします…」
その声に紫織は眼を見張り、勢いよく振り返った。
「カヨさん⁈」
障子が開けられ、涙ぐんだカヨの笑顔が覗いた。
「紫織さん…!
こちらの奥様が、カヨを呼び寄せてくださったのです。
…紫織さんがお寂しいだろうと…」
紫織の胸で泣き崩れるカヨを抱きしめ、そっと曄子を振り返る。
「…曄子叔母様…」
曄子はつんと顎を逸らし、仏頂面で答えた。
「別に貴女のためではありませんよ。
ちょうど、家政婦が辞めて手が足りなかったから来てもらっただけです。
勘違いしないでちょうだい」