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異邦人の庭 〜secret garden〜
第12章 ミスオブ沙棗の涙 〜遠く儚い恋の記憶〜
…ニューヨーク…奥さん…一緒に…。
様々な言葉が、ことごとく紫織の胸に突き刺さる。

「…ニューヨーク…。
…そうですか…」
俯いた紫織に、やや眉を顰めながら堂島は続ける。
「…最初はお母さんの心臓手術に付き添うため、渡米したそうです。
それで術後もそのままアメリカに残り、再びコロンビア大学の大学院に復学したらしいのです。
奥さんは藤木の香料の研究にかなり理解があるようですね。
それで、藤木を追いかけるようにニューヨークに渡ったらしいのです。
今はニューヨーク州立医大に心臓外科医として働いているそうです。
…二人はあちらで結婚したそうですよ…。
子どもは、まだいないようですが…」

「…そうですか…」
…どうしてこんなにショックを受けているのだろうか。
紫織は思う。

…きっと、心のどこかで、藤木はまだ自分を愛していて…いつか会えるのではないかと思っていたからだ…。
いつか、また巡り会えて、また愛し合えると思っていたからだ…。

…けれど…。
堂島の口から出た話は、藤木がアメリカで心機一転、新しい生活を始めていたということだった。
しかも、藤木は妻とともにニューヨークで仲良く暮らしていたのだ…。

…哀しみに沈み込む紫織の耳に、聞き覚えのある古いドイツの愛の唄が流れ込んできた…。

店の古い蓄音機から、それは魔法のように奏でられたのだ…。

…恋人よ、いつか、あの街灯りの下で会いましょう…。
昔みたいに…。

下田のカフェで藤木と聴いた唄だ。

…マレーネ・ディードリッヒのリリーマルレーン…。

流暢なドイツ語で口ずさんでいた藤木の面影が、不意打ちのように蘇る。

…Wenn sich die spaetern Nebel drehn
Wer wird bei der Laterne stehn…

…恋人よ、いつか、あの街灯りの下で会いましょう…。
昔みたいに…。

…昔みたいに…。

いや、この唄のように再び巡り会うことは、もう私たちにはできないのだ…。

紫織の震える白い手に、透明な涙が滴り落ちた。

堂島が小さく息を呑み、そっと…けれどきっぱりと告げた。

「…出ましょう…。
貴女の涙を、誰にも見せたくはない」
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