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異邦人の庭 〜secret garden〜
第12章 ミスオブ沙棗の涙 〜遠く儚い恋の記憶〜
「…少し、落ち着きましたか…?」
ハンカチを差し出され、紫織ははにかみながら頷いた。
「…はい…。
すみません…。
人前で…しかも堂島さんの前で泣くなんて…恥ずかしいわ…」
「そんなことはない。
紫織さんはまだ二十歳でしょう?
歳よりずっと大人っぽいけれど…。
まだまだ大人たちに甘えていいんですよ」
男らしい風貌の堂島は笑うと目尻が下がり、優しい印象が深まる。

…『君はもっと、他人に甘えていいんだよ…』
かつて、そう言った男がいたっけ…。
…けれど、それはもう過去の話だ。
自分はもう、いい加減に忘れなくてはならないのかもしれない。
…あの榛色の美しい瞳をした男も…哀しい恋も…深い深い森に咲く百合と、ひんやりとしたモッシーの薫りも…何もかもを…。

紫織は思い切るように差し出されたハンカチで涙を拭くと、敢えて明るく答えた。

「…そうですよね。
たまにはいいですよね。
…ありがとうございます…。
少しだけ、すっきりしました」

そして…
「すっかり遅くなってしまいましたね。
今日は京都にお泊りですか?」
社交的な笑みで堂島を見上げると、その手を強く握りしめられた。
男の瞳は、真っ直ぐに熱く紫織を射抜くように見つめていた。

「…紫織さん…。
僕は貴女が好きです」

「…え…?」
思わぬ告白に、紫織の瞳が見開かれる。

「…最初に貴女にお目にかかった時から、ずっと貴女に惹かれていた…。
貴女は言葉を失うほどに美しく、きらきらと輝いていて、そして心を鷲掴みにされるほどに可愛いらしかった…。
こんなにも素晴らしい女性を恋人にしている藤木が羨ましかった。
…だから、貴女と別れた藤木の気持ちが僕には未だに分からない。
こんなに美しいひとを泣かせて…哀しませて…。
腹立たしい気持ちで一杯です。
僕なら貴女を泣かせたりしない。
貴女を哀しませたりしない。
僕なら、貴女を幸せにする」

…だから…
堂島はきっぱりとした口調で告げた。

「紫織さん。
僕とお付き合いしていただけませんか?」



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