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異邦人の庭 〜secret garden〜
第12章 ミスオブ沙棗の涙 〜遠く儚い恋の記憶〜
部屋は広々としたデラックススイートルームだった。
高級な七宝焼きのインテリア、町家の縁側をイメージしたリビングエリア…。
一泊二十万はするであろう上級ラグジュアリーな部屋だ。
最初から紫織を誘うために予約したに違いない。
…その用意周到さに、紫織は白けることはなかった。
男の強い欲望を、空気感と肌で感じるだけだった。

…朧に浮かぶ東山三十六峰の山々と、春の鴨川の夜景をぼんやり見つめる紫織の背後に堂島は静かに近づくと、ゆっくりと抱き竦めた。

男の使用しているフレグランスが鼻先を掠めた。
…これは、シャネルのエゴイストプラチナムだ…。
以前、デパートのコスメ売り場でムエットで嗅いだことがある。
ラベンダーとローズマリー…そしてレザーの薫り…。

…紫織は思わず眼を閉じた…。

「…貴女が好きだ…」
抱きしめる力を加えながら、髪に貌を埋められる。
「…たまらなく、好きだ…」
熱い吐息が頸を掠める。
「…本当に綺麗だ…。
こんなにも完璧に美しいひとが存在するなんて…」
くぐもった声が聞こえ、そのまましなやかに身体を反転させられた。
…男の熱く情動に満ちた眼差しが近い。
大きな両手で貌を持ち上げられる。

「…紫織さん…。
大切にするよ…」
何か言おうと微かに開かれた唇を、そのまま奪われた。

「…ん…っ…」
…ライムとシャンパンの香りの熱い舌が、大胆に紫織を奪う。
「…あ…っ…んん…」
久しぶりのキスに、怯えるように身を硬くする紫織の身体ごと、抱きしめる。
優しく髪を撫でながらも、男の舌遣いは遠慮はなかった。
紫織の口内を濃密に…丁寧に弄る。
「…んんっ…」
紫織の乱れた息遣いに、ふっと口唇を離し、小さく微笑った。

「…キスは…久しぶり…?」
「…え…?…」
うっすらと桜色に染まった紫織の頰を愛おしげに撫でる。

「…藤木と別れてから、誰とも何もないの?」
…少し意地悪な言葉と眼差しには、うっすらと妬心が透けて見える。
「…藤木は酷いやつだな。
こんなに美しいひとを…貞淑な未亡人みたいな眼に遭わせて…」

…けれど…

くぐもった低い声に、苛立ちが混ざる。

「…羨ましいよ…。
紫織さんにいつまでも思い続けてもらえる藤木が…」

…羨ましくて、妬ましい…。

そう呟くと、紫織の白い顎を引き寄せ、再び荒々しくも甘く…濃厚な大人のキスを繰り返した。

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