この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
異邦人の庭 〜secret garden〜
第12章 ミスオブ沙棗の涙 〜遠く儚い恋の記憶〜
「伏見稲荷の千本鳥居は本当に美しかったなあ…」
ギムレットを飲みながら、堂島はしみじみと感想を漏らした。
…リッツカールトン京都のバーラウンジは、鴨川の情緒に満ちた夜景が一望できる。
1枚硝子に面した特等席を堂島は予約していた。
店内には低く微かにシャーデーのボーカルが流れていた。
「…あの鳥居の朱塗りの色は、神事の色ですね。
そして、どこか艶めいている…」
堂島の視線を受けながら、紫織はミモザを口に運んだ。
「…そうですね。
あのたくさんの鳥居を潜って稲荷山に登ると、神話の中に入り込んでゆくような錯覚を覚えます。
…時々、このまま戻れなくなるような…そんな怖さも覚えます…」
「神隠しに遭うように?
…こんなに美しいひとを神様は見逃さないでしょうからね」
男の視線に熱い情熱が帯びてくる。
湿度を含んだ熱っぽい欲望を感じさせるもの…。
それはあからさまと言ってもよいものだ。
…けれど、不快に感じるものではない。
紫織は男が自分の横貌を熱く凝視しているのを認識しつつ、グラスを口に運ぶ。
「…ずっと思っていたんですけれど…」
「うん?」
「堂島さんて、キザですよね」
傍の男が苦笑する。
「…そうかな?」
「キザだわ。
それからすごく自分に自信があるみたい。
…貴方に怖いものなんてないんでしょうね」
一呼吸のち、意外なほど弱気な声が聞こえてきた。
「…自信がある振りをしているんだ。
特に紫織さんの前では…。
…そうしないと、自分を保っていられないくらい貴女に夢中だからね…」
「…お口もお上手だわ…」
ふっと笑う紫織の白く美しい手に、堂島の大きな手が重なった。
…幽かな熱い湿度が、男のどこか不器用な直情を語っている。
「…素直な気持ちだよ…」
見上げるその先には、見覚えのある男の恋情と熱情と…それから欲情の眼差しがあった。
「…俺が神様なら、貴女を攫って独り占めする…。
誰にも見せず触れさせず、俺だけの社に閉じ込める…。
…そうして、一生離さない…」
…強く指を絡められ、紫織は微かに吐息を漏らす。
「…今夜は、ここに部屋を取ってあります…。
紫織さんと朝まで過ごしたい…」
…その意味が分からないほど、子どもでも初心でもない…。
長い睫毛の先で男を見上げ、紫織は返事の代わりにその指をしなやかに絡め返したのだ…。
ギムレットを飲みながら、堂島はしみじみと感想を漏らした。
…リッツカールトン京都のバーラウンジは、鴨川の情緒に満ちた夜景が一望できる。
1枚硝子に面した特等席を堂島は予約していた。
店内には低く微かにシャーデーのボーカルが流れていた。
「…あの鳥居の朱塗りの色は、神事の色ですね。
そして、どこか艶めいている…」
堂島の視線を受けながら、紫織はミモザを口に運んだ。
「…そうですね。
あのたくさんの鳥居を潜って稲荷山に登ると、神話の中に入り込んでゆくような錯覚を覚えます。
…時々、このまま戻れなくなるような…そんな怖さも覚えます…」
「神隠しに遭うように?
…こんなに美しいひとを神様は見逃さないでしょうからね」
男の視線に熱い情熱が帯びてくる。
湿度を含んだ熱っぽい欲望を感じさせるもの…。
それはあからさまと言ってもよいものだ。
…けれど、不快に感じるものではない。
紫織は男が自分の横貌を熱く凝視しているのを認識しつつ、グラスを口に運ぶ。
「…ずっと思っていたんですけれど…」
「うん?」
「堂島さんて、キザですよね」
傍の男が苦笑する。
「…そうかな?」
「キザだわ。
それからすごく自分に自信があるみたい。
…貴方に怖いものなんてないんでしょうね」
一呼吸のち、意外なほど弱気な声が聞こえてきた。
「…自信がある振りをしているんだ。
特に紫織さんの前では…。
…そうしないと、自分を保っていられないくらい貴女に夢中だからね…」
「…お口もお上手だわ…」
ふっと笑う紫織の白く美しい手に、堂島の大きな手が重なった。
…幽かな熱い湿度が、男のどこか不器用な直情を語っている。
「…素直な気持ちだよ…」
見上げるその先には、見覚えのある男の恋情と熱情と…それから欲情の眼差しがあった。
「…俺が神様なら、貴女を攫って独り占めする…。
誰にも見せず触れさせず、俺だけの社に閉じ込める…。
…そうして、一生離さない…」
…強く指を絡められ、紫織は微かに吐息を漏らす。
「…今夜は、ここに部屋を取ってあります…。
紫織さんと朝まで過ごしたい…」
…その意味が分からないほど、子どもでも初心でもない…。
長い睫毛の先で男を見上げ、紫織は返事の代わりにその指をしなやかに絡め返したのだ…。