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異邦人の庭 〜secret garden〜
第12章 ミスオブ沙棗の涙 〜遠く儚い恋の記憶〜
礼拝堂の鐘が鳴り響く中、千晴は手にした美しい薔薇を紫織の髪に優しく飾った。
…ダマスクの豊かな芳薫が紫織をふわりと包み込む。
「コンテ・ドゥ・シャンボールの薔薇です。
我が高遠家の紋章ともいうべきこの花は、明治の世に当時の当主がかつて留学していたフランスから持ち帰りました。
ブルボン王朝最後の後継者シャンボール伯爵は、王政、共和制と激動のように揺れ動く時代に最後まで王政復古を諦めませんでした。
最後まで貴族としての誇りを持ち続ける矜持の美しさをこの薔薇に託したのです。
この薔薇の美しさと込められた意味に感銘を受けた当主が、その精神をも後世に残すべく高遠家の紋章としたと言われています。
これは、本来は本家の花嫁にのみ飾ることが許された薔薇なのです。
…けれど僕は特別に貴女にこの薔薇を贈ります…」
千晴は熱い眼差しで、紫織を見つめる。
「紫織さんは僕にとって唯一の方だから…」
少年は遠慮勝ちに、ベールに触れる。
「…本当に…言葉にならないほどにお美しい…。
貴女は薔薇そのものだ…」
そして、手にしたコンテ・ドゥ・シャンボールのブーケを手渡す。
「…貴女にこそ、相応しい薔薇です…」
熱情と尊敬と憧憬と…すべての情愛が込められた仕草で手が差し伸べられた。
「…さあ、参りましょう」
紫織の白い手が静かに差し出される。
婚礼の祝福の鐘が鳴り響く。
徳子の侍女が無表情のまま、慇懃に出迎えに現れた。
「…お式のお時間でございます」
千晴に優雅にエスコートされ、紫織はゆっくりと足を踏み出す。
…政彦が待つ礼拝堂に向かうために…。
…ダマスクの豊かな芳薫が紫織をふわりと包み込む。
「コンテ・ドゥ・シャンボールの薔薇です。
我が高遠家の紋章ともいうべきこの花は、明治の世に当時の当主がかつて留学していたフランスから持ち帰りました。
ブルボン王朝最後の後継者シャンボール伯爵は、王政、共和制と激動のように揺れ動く時代に最後まで王政復古を諦めませんでした。
最後まで貴族としての誇りを持ち続ける矜持の美しさをこの薔薇に託したのです。
この薔薇の美しさと込められた意味に感銘を受けた当主が、その精神をも後世に残すべく高遠家の紋章としたと言われています。
これは、本来は本家の花嫁にのみ飾ることが許された薔薇なのです。
…けれど僕は特別に貴女にこの薔薇を贈ります…」
千晴は熱い眼差しで、紫織を見つめる。
「紫織さんは僕にとって唯一の方だから…」
少年は遠慮勝ちに、ベールに触れる。
「…本当に…言葉にならないほどにお美しい…。
貴女は薔薇そのものだ…」
そして、手にしたコンテ・ドゥ・シャンボールのブーケを手渡す。
「…貴女にこそ、相応しい薔薇です…」
熱情と尊敬と憧憬と…すべての情愛が込められた仕草で手が差し伸べられた。
「…さあ、参りましょう」
紫織の白い手が静かに差し出される。
婚礼の祝福の鐘が鳴り響く。
徳子の侍女が無表情のまま、慇懃に出迎えに現れた。
「…お式のお時間でございます」
千晴に優雅にエスコートされ、紫織はゆっくりと足を踏み出す。
…政彦が待つ礼拝堂に向かうために…。