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異邦人の庭 〜secret garden〜
第12章 ミスオブ沙棗の涙 〜遠く儚い恋の記憶〜
「…何でもありませんわ…」
千晴に背を向け、白いレースの手袋の指先で涙を拭う。
「なぜ泣いていらしたのですか?」
そんな紫織の背後から回り込んで貌を覗かれる。
馴れ馴れしい仕草なのに、この彫像のように美しい少年に為されると、何故か嫌な気持ちにはならない。
…むしろ…
「…少し…気持ちが混乱しただけです…」
…甘いときめきのような感情が芽生える…。
「…紫織さんは、政彦兄さんを愛していらっしゃいますか?」
眼の前に立つ千晴は、165センチある紫織とほぼ同じくらいの背丈だ。
十四歳にしては背が高い方だろう。
…そして、あと数年もすれば軽々と紫織を追い抜き、長身の見上げるような美しい青年になることが容易に想像できた。
「…なぜそんなことを?」
「あまり…お幸せそうには見えないからです」
この早熟な、世にも麗しい少年は遠慮もなく告げたのだ。
「紫織さんの美しい瞳はいつもどこか遠くをご覧になっている…。
…きっと政彦兄さんではない、どなたかを…」
「いいえ…。
違いますわ…」
みなまで言わさせずに、紫織はレースの指先を千晴の唇に押し当てた。
清潔な薔薇の蕾のような少年の唇…。
レース越しにその熱さが伝わる。
千晴は鳶色の瞳を情熱的に潤ませ、紫織の手を強く握り締めた。
「僕は早く大人になりたい。
大人になって貴女を、政彦兄さんから奪い去りたい…。
そして貴女を、幸せにしたい」
「…千晴さん…」
…そんなことが、許されるはずがない…。
紫織は仄かに微笑み、諫めるように首を振った。
「…いけないわ…。
私は政彦さんの妻になるのだし、千晴さんは高遠家の当主になられる方よ…。
今のお言葉は聞かなかったことにしましょう…」
千晴の少年らしい清らかな美しい頬に落胆の色が滲む。
…でも…。
紫織は幽かに微笑み、千晴に歩み寄る。
…早く大人になって…
…鳶色の、美しい瞳をした少年…。
その瞳の色は…あの榛色にも似て…
…いつか…
決して、現実には起こり得ない甘く切ない幻想を夢見る…。
…いつか、私をここから連れ去って…。
紫織はベール越しに祈りにも似たキスを、少年の薔薇の蕾の口唇に与えたのだった。
千晴に背を向け、白いレースの手袋の指先で涙を拭う。
「なぜ泣いていらしたのですか?」
そんな紫織の背後から回り込んで貌を覗かれる。
馴れ馴れしい仕草なのに、この彫像のように美しい少年に為されると、何故か嫌な気持ちにはならない。
…むしろ…
「…少し…気持ちが混乱しただけです…」
…甘いときめきのような感情が芽生える…。
「…紫織さんは、政彦兄さんを愛していらっしゃいますか?」
眼の前に立つ千晴は、165センチある紫織とほぼ同じくらいの背丈だ。
十四歳にしては背が高い方だろう。
…そして、あと数年もすれば軽々と紫織を追い抜き、長身の見上げるような美しい青年になることが容易に想像できた。
「…なぜそんなことを?」
「あまり…お幸せそうには見えないからです」
この早熟な、世にも麗しい少年は遠慮もなく告げたのだ。
「紫織さんの美しい瞳はいつもどこか遠くをご覧になっている…。
…きっと政彦兄さんではない、どなたかを…」
「いいえ…。
違いますわ…」
みなまで言わさせずに、紫織はレースの指先を千晴の唇に押し当てた。
清潔な薔薇の蕾のような少年の唇…。
レース越しにその熱さが伝わる。
千晴は鳶色の瞳を情熱的に潤ませ、紫織の手を強く握り締めた。
「僕は早く大人になりたい。
大人になって貴女を、政彦兄さんから奪い去りたい…。
そして貴女を、幸せにしたい」
「…千晴さん…」
…そんなことが、許されるはずがない…。
紫織は仄かに微笑み、諫めるように首を振った。
「…いけないわ…。
私は政彦さんの妻になるのだし、千晴さんは高遠家の当主になられる方よ…。
今のお言葉は聞かなかったことにしましょう…」
千晴の少年らしい清らかな美しい頬に落胆の色が滲む。
…でも…。
紫織は幽かに微笑み、千晴に歩み寄る。
…早く大人になって…
…鳶色の、美しい瞳をした少年…。
その瞳の色は…あの榛色にも似て…
…いつか…
決して、現実には起こり得ない甘く切ない幻想を夢見る…。
…いつか、私をここから連れ去って…。
紫織はベール越しに祈りにも似たキスを、少年の薔薇の蕾の口唇に与えたのだった。