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異邦人の庭 〜secret garden〜
第14章 ミスオブ沙棗の涙 〜コーネリアの娘の呟き〜
…最近のお兄ちゃまは変だ…。

屋敷の東屋の下、午後のお茶の時間を過ごしながら紗耶は小首を傾げる。
…季節は夏から秋に移り変わっていた。
薔薇の花殻摘みや不要な枝葉を取り除く庭師が忙しく働く庭園には、秋咲きの薔薇を楽しみにするくらいしか真新しいものはなく、紗耶は少し寂しくメランコリックな気分になる。
そろそろ外で朝食を摂るには肌寒い季節となり、今は午後のお茶の時間だけ…となっている。

今日は休日だ。
大学の授業やサークル活動もないので、千晴とのんびりとお茶を愉しんでいる。

…向かい側に座る千晴は、明日の講義の下調べをしているようだ。
秋のマルーン色のニットに辛子色のスラックスの千晴は相変わらず眼が覚めるように美しい…。
この時代錯誤なほどに豪奢で古典的な屋敷と庭園になんの遜色もなく溶け込め、当たりを払うようなオーラとともに存在している。

…けれど、なぜかさっきから頻繁に千晴の照れたような視線を感じるのだ。

ふと、眼が合う。
すると、千晴はやや頰を染めて視線を逸らした。

…ほら…。やっぱり変…。

「お兄ちゃま?どうかされたの?
紗耶、何かおかしい?」
尋ねると、千晴はぎこちない笑みをその端麗な貌に浮かべた。
「…いいや、何でもないよ…」

…けれど、言っている先から、ちらちらと紗耶を眩しげに見遣るのだ。

「…紗耶ちゃんは相変わらず可愛いね。
可愛くて世界で一番綺麗だ…」
予想外な言葉が千晴から飛び出し、紗耶は思わず叫んだ。
「嘘!私なんかちっとも綺麗じゃないわ」

…少なくとも…
「…お母様みたいに…綺麗じゃないもの…」
…紗耶の前には常に美しい母が君臨しているのだ…。

…すると…

「何を言っているの。
紗耶ちゃんは綺麗だよ。
紫織さんは関係ない。
紗耶ちゃんは紗耶ちゃんだから綺麗なんだ」
きっぱりとした言葉と、毅然とした表情の千晴が見つめていたのだ。

「…お兄ちゃま…」
…そんな言葉、初めて聞いた…。
紗耶は驚いた。
今まで、千晴の紗耶に対する賞賛には微かに紫織を匂わせるものがあったからだ。

「…僕は紗耶ちゃんだから、好きなんだよ…」
誠実な言葉…。
…それは、紗耶がずっと欲しかった言葉だ。

「…お兄ちゃま…」
「紗耶ちゃん…。
愛している…君だけを…」

眼を見張る紗耶の口唇に、千晴は純粋な愛だけが詰まった口づけをそっと落としたのだ…。

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