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異邦人の庭 〜secret garden〜
第14章 ミスオブ沙棗の涙 〜コーネリアの娘の呟き〜
「…お兄ちゃま…」
…真摯な愛の言葉の数々に、紗耶の胸は一杯になる。

「…信じてくれる?紗耶ちゃん」
…美しい鳶色の瞳…。
幼い頃、自分を助けてくれた優しく美しい王子様…。
手の届かぬ遠い遠い憧れの存在だった…。
その千晴が自分を…自分だけを愛していると語ってくれたのだ。
信じ難いような夢のような言葉だ。

…私は…もう醜いアヒルの子ではないのかしら…。
コンプレックスだらけだった幼い日々から、漸く抜け出せたのだろうか…。
…そうなら嬉しい…。


「…信じるわ…。お兄ちゃま…。
…だって…」
紗耶は自分から千晴の首筋にほっそりとした両腕を絡ませる。
「…お兄ちゃまは紗耶の運命のひとだもの…」

仄暗いバルコニーは、庭園の洋燈がぼんやりと辺りを照らしているだけだ。

…ロミオとジュリエットのバルコニーのシーンみたい…。
先日観たバレエ公演を思い出す。
…こんな場面なら、紗耶も大胆に振る舞える。
自信を持って、千晴と向き合える。

琥珀色の洋燈が照らす千晴は、まさに夢の王子様だ。
…お兄ちゃまは昔と少しも変わらない…。

「…愛しているわ。お兄ちゃま…」
…自分にはやはり千晴以外は考えられないと心に刻みながら告げる。

「…紗耶ちゃん…!
愛しているよ…!」
狂おしく強く抱き竦められ…熱い吐息と、それより遥かに熱く甘いキスを与えられ、紗耶はそっと眼を閉じた。

…愛しているわ…。
大好きな、大好きなお兄ちゃま…。
美しい私の王子様…。

千晴の甘やかな情熱的な口づけに、紗耶は上等のワインのように酔い痴れる。

…やがて先刻の徳子の言葉は、綿飴のようにふわりと消え去っていったのだ…。
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