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異邦人の庭 〜secret garden〜
第15章 カーネーション・リリー・リリー・ローズ
秋風も爽やかな十月の初旬のこと…。
文学部の棟にあるその研究室の扉を、紗耶はそっとノックした。
…壁には出勤している印の「清瀧柊司」と教授名が書かれた白いネームプレートが掛けられている。
…清瀧先生…いらっしゃるかしら?
清瀧准教授…清瀧柊司の講義・近代英国文学概論を週に一度、紗耶は受講している。
清瀧の授業は厳しいけれど実に内容が豊富で話も面白く、紗耶は毎週楽しみしているのだ。
けれど一年生のうちはまだ大教室の授業なので、紗耶は凡そ百名いる学生のうちのひとりだ。
教授の清瀧が紗耶を認識しているとは思えない。
つまり紗耶が一方的に「会っている」状態だ。
四月の初めに千晴と挨拶に行って以来、清瀧とは近しく話したことはなかった。
『いつでも遊びにおいで』
清瀧は優しくそう声を掛けてくれていた。
しかしいくら千晴の親友とは言え、まだ一年生の紗耶にとって大学教授の研究室を訪ねることは、とても敷居が高かったのだ。
…だから、ひとりで研究室を訪ねるのはこれが初めてだった。
…大丈夫。
ちゃんとご用があるんだから…。
紗耶は自分に言い聞かせる。
「はい。どうぞ」
中から落ち着いた優しい声が聞こえた。
…良かった…。いらっしゃるわ…。
ほっと胸を撫で下ろす。
「…失礼いたします。
二宮紗耶です」
緊張しながら小さな声で名乗り、紗耶は遠慮勝ちにドアを開けた。
文学部の棟にあるその研究室の扉を、紗耶はそっとノックした。
…壁には出勤している印の「清瀧柊司」と教授名が書かれた白いネームプレートが掛けられている。
…清瀧先生…いらっしゃるかしら?
清瀧准教授…清瀧柊司の講義・近代英国文学概論を週に一度、紗耶は受講している。
清瀧の授業は厳しいけれど実に内容が豊富で話も面白く、紗耶は毎週楽しみしているのだ。
けれど一年生のうちはまだ大教室の授業なので、紗耶は凡そ百名いる学生のうちのひとりだ。
教授の清瀧が紗耶を認識しているとは思えない。
つまり紗耶が一方的に「会っている」状態だ。
四月の初めに千晴と挨拶に行って以来、清瀧とは近しく話したことはなかった。
『いつでも遊びにおいで』
清瀧は優しくそう声を掛けてくれていた。
しかしいくら千晴の親友とは言え、まだ一年生の紗耶にとって大学教授の研究室を訪ねることは、とても敷居が高かったのだ。
…だから、ひとりで研究室を訪ねるのはこれが初めてだった。
…大丈夫。
ちゃんとご用があるんだから…。
紗耶は自分に言い聞かせる。
「はい。どうぞ」
中から落ち着いた優しい声が聞こえた。
…良かった…。いらっしゃるわ…。
ほっと胸を撫で下ろす。
「…失礼いたします。
二宮紗耶です」
緊張しながら小さな声で名乗り、紗耶は遠慮勝ちにドアを開けた。