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異邦人の庭 〜secret garden〜
第15章 カーネーション・リリー・リリー・ローズ
「…紗耶さん?
こんにちは。よく来てくれたね」
書庫の整理をしていたらしい清瀧は古い蔵書を手にしたまま、紗耶に親しみ深く微笑みかけてくれた。
…淡いブルーのワイシャツを腕まくりしている姿は知的な中にも凛々しく成熟した男性の魅力が感じられた。


その優しい笑みに紗耶はほっとしながら、頭を下げた。
「突然伺いまして申し訳ありません」

そうして、手にした三越の手提げ袋を丁寧に手渡した。
「…実はあの…少し早いんですけれど、お子様ご誕生のお祝いをお兄ちゃま…いえ、千晴さんから言付かってまいりました」

清瀧は眼を見張り…少し照れたように笑った。
「…ああ、それは嬉しいなあ。
覚えていてくれたの?」
「もちろんです。
…そろそろお生まれになる頃かな…と思いまして…。
奥様、ご体調はいかがですか?」
「ありがとう。お陰様で元気にしているよ。
…実はもう予定日は過ぎたんだけれど、まだ生まれる兆しがなくてね。
ちょっと毎日そわそわしているんだ」
少し焦れたような心配そうな表情をしてみせた。

清瀧の妻・澄佳は房総の小さな海の町で小さな食堂を営んでいる。
東京の大学で教鞭を取る清瀧とは週末婚だそうだ。
大変な愛妻家らしい清瀧は臨月の妻が心配で仕方ないのだろう。
言葉の端々に妻への愛情が滲み出ていた。

ギフトの包み紙を開けて、清瀧は小さく声を上げた。
「…これは素晴らしい…」

…祝いの品はティファニーの銀のスプーンだ。
先週の日曜日、二人で銀座に行き一緒に選んだのだ。

『ヨーロッパのある国では出産前にお祝いを贈られると母子共に健康に子どもが生まれると言う言い伝えがあるらしい。
…柊司には無事に父親になって欲しいからね』
そう言って笑った千晴は友だち想いの優しさに溢れていた。
…お兄ちゃまと清瀧先生は、本当に良いお友だちなのだわ…。
紗耶はしみじみ思った。


「…銀のスプーンか…。
…Born with a silver spoon in one’s mouth…。
銀のスプーンを咥えて生まれて来た赤ちゃんは、幸せになるというヨーロッパの言い伝えがあるんだよ。
そうして銀器は、魔除けの役割とも言われている。
すごく素敵な贈り物だ。
…ありがとう…。妻もきっと喜ぶよ」

清瀧は晴れやかな笑顔で礼を言った。
それは、もうすぐ父親になる晴れがましい慶びの笑みであった。


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