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異邦人の庭 〜secret garden〜
第15章 カーネーション・リリー・リリー・ローズ
「…先生…」
「紗耶さんは素敵なレディだ。
ずっとそのままでいてほしいな」
…ずっとそのまま…。
紗耶ははっと息を呑む。

「…でも…お兄ちゃまは、そうは思っていないんです…」
ぽつりと呟く。
沸騰した湯をゆっくりと茶葉に注ぐ。
馥郁たるダージリンの芳香が立ち込める。

「なぜそう思うの?」
静かな声が聞こえた。

「…お兄ちゃまは、私を完璧な…高遠の家に相応しい御台所にしたいそうです…。
美しく洗練されて、誰もが憧憬を抱くような御台所に…。
だから黙って付いてくればいいよ…て。
…私が未熟なことはもちろん分かっています…」

…でも…

「…このままの私じゃ、だめなのかな…て、少し悲しくなってしまうんです…」
口にして、慌てて首を振る。
「いいえ。今の私じゃ、だめなのは当たり前ですよね。
まだ十八歳だし、これからたくさん色々なことをお勉強したり修業したりしなければならないんだし…。
私、厚かましいですね。
おかしなことを言いました。
忘れてくださ…」
言いかける紗耶に…

「…由緒正しい歴史ある大家に嫁ぐお嫁さんには、普通の感覚では考えられないくらい大変なことがたくさんあるんだろうね…」
しみじみとした声が続いた。
その押しつけがましくない優しい言葉に鼻の奥がつんとなり、涙ぐみそうになる。

「千晴さんは、その高遠家の当主だ。
彼には背負うものがたくさんある。
若い彼には荷が重いことも多々あるだろう。
…彼のことは柊司くんからよく聞いているよ。
美しいだけでなく高貴で優雅で賢くて人望もあるそうだね。
気が遠くなるほどに長い歴史と伝統に彩られた高遠家の当主…。
その御台所は同じくらいに大変な重責を担わなくてはならないのかもしれないね」

…やはり…そうなのだわ…。
紗耶は俯き、頷いた。

「…そう…ですよね…」
…このままの私じゃ、全然だめなのだ…。

…けれど、誤解を恐れずに言うなら…
と、藤木の穏やかだが、凛とした声は続いたのだ。

「…僕なら、そのままの紗耶さんがいい。
変わる必要なんてないと思うね」


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