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異邦人の庭 〜secret garden〜
第3章 コンテ・ド・シャンボールの想い人
…どうして…?
千晴お兄ちゃま…。

紗耶は泣くこともできずに、茫然とコンテ・ド・シャンボールの薔薇のもとに、座り込んだ。

…お母様を愛していらっしゃるから…紗耶を花嫁になさるの…?
私は…お母様の身代わり…?

自分の考えに、びくりと震え…我が身を掻き抱く。

…私が…お母様の娘だから…花嫁に選ばれたの…?
私を認めてくださったからではなく…?
私を愛してくださったからではなく…?

…そうなのだと、それらすべてが真実なのだと受け止める紗耶の心は今にも張り裂けそうだ。

千晴は紗耶を愛してプロポーズしたのではなかったのだ…。
…紫織を愛していたから…紗耶を得たかっただけなのだ…。

哀しみに俯く紗耶の髪から、千晴が飾ったコンテ・ド・シャンボールの薔薇の花がふわりと落ちる。
震える白い手が、それを拾う…。

…私は…これからどうしたら良いのだろう…。
私を愛していないお兄ちゃまの花嫁になれるのだろうか…。
…これからも、愛されはしないのに…。

…でも…。

紗耶は遠い昔を思い起こす。

…私は…あの日のお兄ちゃまを忘れることはできないのだと…。

テディベアのアリスを取り戻してくれた千晴を…。
よく頑張ったねと、褒めてくれた千晴を…。
…ひんやりとした…けれど優しい手を…。

…それから…

自由に生きて良いのだと、紗耶の心の扉を開け放してくれた千晴を…。

…私は、すべて覚えているのだと…。

何より…
…お母様を愛しているお兄ちゃまでも、私を身代わりになさるお兄ちゃまでも、私は…哀しいほどに、切ないほどに恋しているのだと…。

…だから…。

紗耶は手のひらの薔薇に、そっと頰を寄せた。

…可哀想な私…可哀想な薔薇…。

…けれど…どんなに惨めでも、この恋を諦めることができないのだ…。

「紗耶嬢ちゃん、待たせてすまんのう!
嬢ちゃんに似合いの薔薇を選ぶのに迷うてしもうて…。
…雪が降ってきたからスノーホワイトにしたんじゃが…」
スノーホワイトの花束を抱えた森野が蹲る紗耶を見て、慌てふためく。
「ど、どうしたんじゃ?嬢ちゃん。気分でも悪いんか?
なんで泣いとるんじゃ?」

紗耶は貌を上げ、精一杯の笑顔を作った。

「ううん。嬉し泣きなの。
…私…千晴お兄ちゃまのお嫁様になれるから…」

…温室の硝子窓には、聖夜に相応しい影絵のような粉雪が舞い落ちる…。


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