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異邦人の庭 〜secret garden〜
第3章 コンテ・ド・シャンボールの想い人
…千晴の手が、強く紫織を掻き抱く。
「…貴女の娘を花嫁にしたかった…。
貴女のこの血と肉を分けた娘…。
愛おしい貴女の美しい遺伝子を受け継いだ娘…。
紗耶ちゃんはまさに貴女だ…」
千晴の大きな美しい手が、愛おしげに紫織の髪を撫でる。
…後ろ姿の紫織からは、その表情を窺い知ることはできない。
「…酷い…。酷いわ…。
紗耶は…あの子は、貴方をお慕いしているのですよ。
あの子の表情を見ればお分かりでしょう?
…それを…」
震える紫織の声…。
それに続く千晴の声は、どこかうっとりと夢見るような色を帯びていた。
「…ああ、それは嬉しいな。
僕はずっと紗耶ちゃんに嫌われていると思っていたからね。
…僕は紗耶ちゃんが好きだよ。
愛らしくて優しくて素直で…本当に良い子だ。
…貴女のこの美しい身体から生まれてきた娘…。
僕は紗耶ちゃんを幸せにするよ。
約束する。
…だって、貴女の娘だからね…」
紫織の鳩羽紫色の訪問着の袖が激しく揺れる。
「なんてことを…!貴方は…!
紗耶の気持ちは…紗耶の気持ちは…」
…突然、紫織の言葉が途切れる。
紗耶は長い睫毛を震わせ、咄嗟に口に手を当てた。
信じ難い光景に、今にも叫び出してしまいそうだったからだ。
…紫織の唇を荒々しく奪った千晴は、その激しい情動のまま狂おしく掻き口説く。
「…愛している…愛しているんだ…!
紫織さん…!
…貴女と結ばれることが許されないならば、せめて貴女の娘を僕にください…!
必ず…必ず幸せにするから…!」
紫織が千晴を突き放し、涙ながらに叫ぶ。
「…貴方は間違っている…間違っているわ…!
けれど私は…紗耶の気持ちを知っている私は…どうすることもできない…。
…私は…貴方を憎むわ…。
私の大切な娘を…こんな形で花嫁にする貴方を…心から…憎むわ…!」
走り去る紫織に、哀しげな千晴の声が追い縋る。
「憎んでくれ…!
僕を愛してくれないなら…いっそ…。
その方が僕は…僕は…!」
…やがて、千晴の力ない足音も温室から沫雪のように消えた。
「…貴女の娘を花嫁にしたかった…。
貴女のこの血と肉を分けた娘…。
愛おしい貴女の美しい遺伝子を受け継いだ娘…。
紗耶ちゃんはまさに貴女だ…」
千晴の大きな美しい手が、愛おしげに紫織の髪を撫でる。
…後ろ姿の紫織からは、その表情を窺い知ることはできない。
「…酷い…。酷いわ…。
紗耶は…あの子は、貴方をお慕いしているのですよ。
あの子の表情を見ればお分かりでしょう?
…それを…」
震える紫織の声…。
それに続く千晴の声は、どこかうっとりと夢見るような色を帯びていた。
「…ああ、それは嬉しいな。
僕はずっと紗耶ちゃんに嫌われていると思っていたからね。
…僕は紗耶ちゃんが好きだよ。
愛らしくて優しくて素直で…本当に良い子だ。
…貴女のこの美しい身体から生まれてきた娘…。
僕は紗耶ちゃんを幸せにするよ。
約束する。
…だって、貴女の娘だからね…」
紫織の鳩羽紫色の訪問着の袖が激しく揺れる。
「なんてことを…!貴方は…!
紗耶の気持ちは…紗耶の気持ちは…」
…突然、紫織の言葉が途切れる。
紗耶は長い睫毛を震わせ、咄嗟に口に手を当てた。
信じ難い光景に、今にも叫び出してしまいそうだったからだ。
…紫織の唇を荒々しく奪った千晴は、その激しい情動のまま狂おしく掻き口説く。
「…愛している…愛しているんだ…!
紫織さん…!
…貴女と結ばれることが許されないならば、せめて貴女の娘を僕にください…!
必ず…必ず幸せにするから…!」
紫織が千晴を突き放し、涙ながらに叫ぶ。
「…貴方は間違っている…間違っているわ…!
けれど私は…紗耶の気持ちを知っている私は…どうすることもできない…。
…私は…貴方を憎むわ…。
私の大切な娘を…こんな形で花嫁にする貴方を…心から…憎むわ…!」
走り去る紫織に、哀しげな千晴の声が追い縋る。
「憎んでくれ…!
僕を愛してくれないなら…いっそ…。
その方が僕は…僕は…!」
…やがて、千晴の力ない足音も温室から沫雪のように消えた。