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異邦人の庭 〜secret garden〜
第17章 secret garden 〜永遠の庭〜
「やあ、ようやく戻ったのかい。
今回の旅は少し長かったようだね。
グラースはどうだったかい?
プロフェッサー」
隣家の老主人ミシェル・エルメが、のんびりした声を上げながら、にこにこと帰宅したばかりの藤木の前に現れた。
…ミシェルは恐らくは九十はゆうに超えた老人だが、プラチナブロンドの髪は豊かで矍鑠とした粋な男だ。
彼は隣家のペンションとニースに何軒もフラワーショップを経営するオーナーであり、藤木が暮らすこの家の大家でもあった。
また、ミシェルは自分の温室や広い肥沃な土地を藤木に無償で提供してくれていた。
藤木が新種の薔薇や、南仏のまだまだ珍しい花々を栽培し、精油を精製できるのも全てはミシェルのお陰と言っても過言ではなかった。
「ミシェル、ただいま戻りました。
とても良い薔薇の精油が手に入りましたよ。
やはりグラースは香水の街ですね。
ディオールやシャネルが薔薇園を所有しているだけのことはある。
…その花束は?」
藤木はミシェルの手にした鮮やかな黄色のイモーテルの花束に眼を遣る。
「…これは私の古い友人たちへの花だ。
これから墓参りに行くのだよ。
…今日が二人の命日なものでね」
ミシェルは愛おしげにその花束を見つめた。
そうして、藤木の背後の古びた…けれどどこか品格のある清潔な家を振り返る。
「…プロフェッサーが今住んでいるこの家…。
そこがこの二人の店であり、愛の住まいだったのだよ。
…もうはるか昔のことだ。
世界があの忌まわしい大戦をようやく終結する間際の頃の…ね。
けれど、まるで、昨日のことのように思い出せるよ…」
ミシェルの紺碧の海の色の瞳が、懐かしさと愛惜の色にじわりと潤む。
「…ミシェル…。
そんなに大切な方々だったのですね…」
しみじみと、老人の心を慮る。
「ああ、そうだ。
…君と同じジャポネーゼでね。
君のように美しい二人だった…。
君を見ると、彼らを思い出すよ。
彼らのことは、きっと私が死ぬまで忘れないだろう」
…そうして、まるで子どもの頃から大切にしていた宝物の名前を呼ぶように呟いた。
「…アキラとツキシロ…。
彼らは私の生涯の友人であり…初恋のひとだ…」
今回の旅は少し長かったようだね。
グラースはどうだったかい?
プロフェッサー」
隣家の老主人ミシェル・エルメが、のんびりした声を上げながら、にこにこと帰宅したばかりの藤木の前に現れた。
…ミシェルは恐らくは九十はゆうに超えた老人だが、プラチナブロンドの髪は豊かで矍鑠とした粋な男だ。
彼は隣家のペンションとニースに何軒もフラワーショップを経営するオーナーであり、藤木が暮らすこの家の大家でもあった。
また、ミシェルは自分の温室や広い肥沃な土地を藤木に無償で提供してくれていた。
藤木が新種の薔薇や、南仏のまだまだ珍しい花々を栽培し、精油を精製できるのも全てはミシェルのお陰と言っても過言ではなかった。
「ミシェル、ただいま戻りました。
とても良い薔薇の精油が手に入りましたよ。
やはりグラースは香水の街ですね。
ディオールやシャネルが薔薇園を所有しているだけのことはある。
…その花束は?」
藤木はミシェルの手にした鮮やかな黄色のイモーテルの花束に眼を遣る。
「…これは私の古い友人たちへの花だ。
これから墓参りに行くのだよ。
…今日が二人の命日なものでね」
ミシェルは愛おしげにその花束を見つめた。
そうして、藤木の背後の古びた…けれどどこか品格のある清潔な家を振り返る。
「…プロフェッサーが今住んでいるこの家…。
そこがこの二人の店であり、愛の住まいだったのだよ。
…もうはるか昔のことだ。
世界があの忌まわしい大戦をようやく終結する間際の頃の…ね。
けれど、まるで、昨日のことのように思い出せるよ…」
ミシェルの紺碧の海の色の瞳が、懐かしさと愛惜の色にじわりと潤む。
「…ミシェル…。
そんなに大切な方々だったのですね…」
しみじみと、老人の心を慮る。
「ああ、そうだ。
…君と同じジャポネーゼでね。
君のように美しい二人だった…。
君を見ると、彼らを思い出すよ。
彼らのことは、きっと私が死ぬまで忘れないだろう」
…そうして、まるで子どもの頃から大切にしていた宝物の名前を呼ぶように呟いた。
「…アキラとツキシロ…。
彼らは私の生涯の友人であり…初恋のひとだ…」