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異邦人の庭 〜secret garden〜
第17章 secret garden 〜永遠の庭〜
「…アキラとツキシロ…。
それはもしかして…」
何となく察知して、遠慮勝ちに言いかける藤木にミシェルは柔らかく笑った。
「そう。
彼らは今では珍しくもないが、男同士の恋人…いや、ベターハーフ…良き伴侶だったのだよ。
…そしてアキラは私の初恋のひとだった」
…アキラ…。
本当に…この世のものとは思えないほどに清らかで綺麗なひとだった…。
綺麗で優しくて温かくて…どこか儚げで…。
少年の私ですら、彼を守ってあげたいと思わせるような繊細で美しく…そして匂い立つような官能的なひとだったよ…。
ミシェルは目の前のどこまでも続く紺碧の海を見ながら、呟いた。
「ツキシロさん…とは?」
興味を持った藤木が尋ねた。
…ツキシロ…月城…と書くのだろうか。
ふと頭を巡らす。
「彼はアキラとは真逆の美しさを持つ大人の成熟した男性だった。
…ジャポンにいた頃は大貴族の執事を務めていたという経歴のひとでね。
ニースに来てからは、漁師をしながらここにビストロを開いてシェフをしていた。
漁師としての腕前もピカイチ。
ニースのどの漁師より度胸もあって勘が鋭くて、感心されていたね。
シェフとしてもとても器用でセンスが良くてね。
…二人がこの店を開いてからは一年中、お客が引きも切らずで…それはそれは賑やかだった…」
…在りし日々を懐古するようにミシェルは眼を細め、藤木の前の玄関ドアにゆっくりと手を伸ばした。
ミシェルの深い皺が刻まれた指が、愛おしげに漆喰の扉を撫でる。
…bistro la foret…
するとその表面に、錆びた銅板の上に描かれた洒落た文字が薄く浮かび上って見えた。
…それはまるで、魔法のようだった。
毎日見ていた筈なのに…と、藤木は驚きに眼を見張った。
「…ツキシロの名前が日本語で森と書くそうでね。
それでこの店名にしたらしい…。
…彼ららしい…静謐な…どこか神秘的な良い名前だったよ…」
藤木はいつしかミシェルの話に惹き込まれて行った。
「…よろしければ、お掛けになりませんか?」
玄関前ポーチに置かれた籐の長椅子を勧めた。
「じっくりお話を伺いたいです」
ミシェルが目尻の優しい皺ごと微笑んだ。
「…ありがとう。プロフェッサー。
それではゆっくりと聴いてもらおうかな。
…年寄りの昔話であり…美しい彼らの愛に満ちた…お伽噺のように幸せな人生を…」
それはもしかして…」
何となく察知して、遠慮勝ちに言いかける藤木にミシェルは柔らかく笑った。
「そう。
彼らは今では珍しくもないが、男同士の恋人…いや、ベターハーフ…良き伴侶だったのだよ。
…そしてアキラは私の初恋のひとだった」
…アキラ…。
本当に…この世のものとは思えないほどに清らかで綺麗なひとだった…。
綺麗で優しくて温かくて…どこか儚げで…。
少年の私ですら、彼を守ってあげたいと思わせるような繊細で美しく…そして匂い立つような官能的なひとだったよ…。
ミシェルは目の前のどこまでも続く紺碧の海を見ながら、呟いた。
「ツキシロさん…とは?」
興味を持った藤木が尋ねた。
…ツキシロ…月城…と書くのだろうか。
ふと頭を巡らす。
「彼はアキラとは真逆の美しさを持つ大人の成熟した男性だった。
…ジャポンにいた頃は大貴族の執事を務めていたという経歴のひとでね。
ニースに来てからは、漁師をしながらここにビストロを開いてシェフをしていた。
漁師としての腕前もピカイチ。
ニースのどの漁師より度胸もあって勘が鋭くて、感心されていたね。
シェフとしてもとても器用でセンスが良くてね。
…二人がこの店を開いてからは一年中、お客が引きも切らずで…それはそれは賑やかだった…」
…在りし日々を懐古するようにミシェルは眼を細め、藤木の前の玄関ドアにゆっくりと手を伸ばした。
ミシェルの深い皺が刻まれた指が、愛おしげに漆喰の扉を撫でる。
…bistro la foret…
するとその表面に、錆びた銅板の上に描かれた洒落た文字が薄く浮かび上って見えた。
…それはまるで、魔法のようだった。
毎日見ていた筈なのに…と、藤木は驚きに眼を見張った。
「…ツキシロの名前が日本語で森と書くそうでね。
それでこの店名にしたらしい…。
…彼ららしい…静謐な…どこか神秘的な良い名前だったよ…」
藤木はいつしかミシェルの話に惹き込まれて行った。
「…よろしければ、お掛けになりませんか?」
玄関前ポーチに置かれた籐の長椅子を勧めた。
「じっくりお話を伺いたいです」
ミシェルが目尻の優しい皺ごと微笑んだ。
「…ありがとう。プロフェッサー。
それではゆっくりと聴いてもらおうかな。
…年寄りの昔話であり…美しい彼らの愛に満ちた…お伽噺のように幸せな人生を…」