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秒針と時針のように
第8章 おまけ

 雨の気配は髪が敏感だ。
 まだ薄暗い中、ベッドにもそりと起き上がった忍が湿ったまぶたを擦る。
 六時か。
 ベタついた床に足を下ろして、テーブルにばらまかれたゴムを一つ摘まみ、髪を雑に束ねながら洗面所に向かう。
 二度ほど洗顔し、タオルで優しく頬を包む。
「今日はアイツも早かったよな……」
 しゃこしゃこ、と歯磨きを済ませて、寝巻きのまま玄関を出て隣をノックする。
 そこで、フッと笑いが零れた。
 低血圧な俺に起こさせるとは。
 身分良いじゃねえか、拓。
「わああっおはよっ」
 案の定、今飛び起きましたと全身で主張してくる拓が扉を開いた。
 間抜け。
「ああ。これはおそようございます。拓様」
「え? 今日執事プレイの日?」
 バコン、と寝癖で跳ねた頭を叩く。
「ボケてんじゃねえよ。今日テストなんだろ?」
「愛の?」
「死にてえか?」

 拓は大学に。
 俺は職場に向かう。
 その前にアパートの近くのファストフードで朝食を済ませることにした。
 ローストビーフチーズサンドとウィンナーの盛り合わせ。
 拓はゴボウサンドとサラダ。
「よくそれで血糖値保てるよな」
「忍こそビタミン不足で倒れる」
「朝はいいんだよ。体冷やすし」
「えっ。忍ちゃん冷え性なの?」
「やめろ」
「ゴボウて冷え性効くらしいよ」
「根を茶にしたときだろ、阿呆」
「なるほど。なんで」
「知ってるかは訊くな」
 七分で食べ終えて、拓がトレイを片付けている間に外に出る。
 日光が熱い。
 街道には木々がならんで日陰を揺らしているが、それでもこの容赦ない陽光を視覚的にすら弱めてくれない。
 右腕を見下ろす。
「焼けたくねー」
「日焼け止め塗ろうか?」
「てめえ音もなく後ろに立つなよ」
「忍の忍は忍者のニン!?」
「外で叫ぶな。うっせ」
 そこから別行動だ。
 拓は借りている駐車場に車を取りに、俺はバス乗り場に。
 通勤二十分。
「忍は免許取んないの?」
「車嫌い」
「自転車は乗るのにな。バイクは?」
「いつか」
 理由は単純。
 なんでわざわざ自分より重いものを運転してまで移動しなきゃならないのか理解できないから。
 しかし拓のには乗る。
 他人の運転なら楽だし。
「車通学目立たねえ?」
「んー。意外にいるんだよな」
「他のは乗せんなよ」
「忍専用助手席に?」
「ハイハイ安心安心」
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