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秒針と時針のように
第8章 おまけ

 俺にもあんのかな。
 ストライクポイント。
「忍」
「あ?」
 いつの間にか箸を置いていた拓が、テーブルに手を突いて、こちらに前屈みになる。
 近い。
「なんだよ?」
 声が震えないよう。
 動揺しないよう。
 バクバクと煩い心臓を無視する。
「……俺の鎖骨好きなの?」
 かあっと顔が発熱する。
「ばっ、てめえバカだろ!? ビール二本で酔ってんじゃねえぞ」
 ガタン、とテーブルが揺れる。
 拓はそれを押し退けて、まだ箸を持ったままの俺に近づく。
 頭上の壁に両手をついて、見下ろされる。
 やけに拓が大きく見えた。
「……あれだけ見といてよく言うよ」
「違うっ。あれは」
「なに?」
 やべえ。
 声が近いから、ゾクゾクする。
 箸を両手で握りしめて、拓に向ける。
「忍」
「あ、あっち戻れ……刺すぞ」
 なんて情けない声だ。
 テリトリーゾーン。
 それを簡単に侵してくる男。
 だから、怖いんだ。
 たまに本気で、てめえが怖くなる。
 そっと手が添えられたかと思うと、傍らに箸が弾かれ、気づいたときには唇が触れ合っていた。
「ん……んう」
 眼を瞑ると同時に涙が零れた。
 暖かい舌が唇を舐めて、中に入ってくる。
 肩から力が抜けて、ただ為すがままになってしまう。
 長い髪に指が差し込まれ掻き上げられると、首筋が総毛立つ。
「や、……め」
 なんとか肩を掴んで、拓を引き剥がす。
 お互い息が切れていた。
 壁にもたれかかったまま、脱力する。
「誰が見るかよ……てめえの」
「忍って素直じゃないよね」
「っ、まさかこれ目的に息巻いて作ったのかよ」
「違う。オレは単純に忍を喜ばせたかったんだ」
 だから……
 このアホは。
 両腕を伸ばして拓の首を抱く。
 突然のことに反応できない強張った首筋に歯を当てた。
「いっ」
 犬歯で甘く噛み、それから舌を這わせる。
「し、のぶ!」
 本気で焦ってるのが面白くて、喉仏から下に沿わせ、浮き出た骨の窪みを舐める。
 汗の味。
「んっ、やめろって」
 慣れてない反応。
 ああ。
 嘘じゃねえんだな。
 てめえも童貞か。
 真っ赤になりやがって。
「あんま嬉しいこと言うな、拓」
「え……?」
「てめえから離れられなくなるだろうが」
 眼を逸らそうとしたが、顎を掴まれ無理やり顔を合わせられる。
「それはオレの台詞なんだけど」
「だろうな」
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