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秒針と時針のように
第8章 おまけ
半分ほどなくなってから、カレンダーを見る。
六月十二日。
「なんの日つったっけ?」
「ほいひとのひ」
「飲んでから言え」
ビールグラスを突きつける。
喉を鳴らしながら流し込むと、拓はニコリと顔を緩ませて言った。
「恋人の日」
「半年早くね?」
「外国のクリスマスは家族で祝うんだぞ」
「リア充の公認セックスの日だろ」
「前から思ってたんだけど、忍って童貞?」
バキン、と噛み割ったカルビの骨をしげしげと眺める。
「これって殺傷力どのくらいだろうな」
「ごめんなさいごめんなさい」
中の黒く固まった身を食みながら睨む。
「なんで今更?」
「大学だとそういう話になるから」
「てめえは何て答えてんだよ?」
「……童貞」
笑いを堪えすぎて頬がひきつった。
「そんな顔するならむしろ罵れよ!」
「可哀想になあ」
骨を皿に捨て、肉吸いの出汁を飲む。
「大学てヤることしか考えてない奴多すぎんだよな。その人数は上手く行かなかった数だろうが。自慢すんなって思うわ。たまに疲れるんだよな、そーゆーノリ」
きょとんと拓を見てしまう。
サラダをつついていた拓も目線に気づいて首を傾げる。
「……なに?」
「いや……意外つか。てめえも人との会話面倒になったりすんだなって」
「忍は俺をMCだとでも思ってんの」
「あー。そんな感じ」
大袈裟に溜め息を吐かれる。
「ペラペラ喋れんのなんて忍の前くらいだっつの」
こいつ。
数秒静止してしまった俺は、口を押さえて何かを言おうとした自分を閉じ込めた。
末期だ。
いや、アメリカ行った時点で自覚はしてたが。
どんだけ好きなんだよ。
こいつのこと。
「忍ちゃん?」
「コーラおかわり。注げ」
「手酌は出世しないんだっけ?」
「しても仕方ないけどな」
「俺は黒スーツで社長室で足組んでる忍見たいなあ。あっでもそしたら美女秘書雇うんだろ!? やべえダメだ。忍のプライベートがリークされる」
「妄想で慌ててんじゃねえよ」
黒スーツでって。
格好良いのか、それ。
いまいちこいつのツボがわかんねえんだよな。
会ったときからだが。
こないだPC用眼鏡を着けていただけで悶絶していたくらいだ。
どこかしらストライクポイントがあるんだろ。
すっと視線を拓の首筋に移す。
綺麗な喉仏の陰。
背中の筋肉が少し目立つ肩ライン。