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秒針と時針のように
第4章 認めたくないこと
 アパートに着き、鍵を開けて中に入る。
 荷物を部屋に下ろしてから、ベッドに忍を横たわらせる。
 丁寧に布団を被せて。
 その脇に腰を下ろして顔を覆った。
 深く深呼吸をする。
 それから口元で手を合わせて目を開いた。
 簡易な六畳の部屋。
 あるのはベッドと机だけ。
 テーブルが欲しいけど、置くと狭くなるからって買ってない。
 冬のために敷いたホットカーペットの電源を入れる。
 どうにも部屋が寒すぎる。
 いや、感覚がないだけか。
 カチカチと。
 壁にかかった時計が時を刻んでいる。
 その針を見上げて追う。
 カチカチ。
 秒針が時針を追いかける。
 触れ合ったら離れて。
 すぐにまた重なって。
 分針はその間でゆっくり進む。
 カチカチと。
 いつまでも。
 ふーっと息を吐く。
 夕食。
 コンビニの袋の中身をばらまく。
 メロンパンが四つ。
 パックの林檎ジュースに紅茶。
 立ち上がってキッチンの棚からグラスを持ってくる。
 けど、思い直してカップにジュースを注ぎ、レンジにかけた。
 暖かいものの方が飲みやすいはずだ。
 電子音が鳴り、カップを持って忍を揺する。
「忍。起きろー」
 自分の声が、乾いてる。
 なんだ。
 自分の声に聞こえない。
 まるで感情のない。
 そんな、声。
 少し唸って、忍が目を開けた。
 何回か瞬きをして、オレを見つける。
 開きかけた口をギュッと閉じると、忍は布団を引っ張り上げその中に隠れた。
「忍っ?」
「こっち来んな!」
 くぐもった叫び。
 オレの手が空中で止まる。
 そして、パタンと体のそばに落ちてきた。
「……忍」
 カップの熱さえ感じない。
 麻痺してしまったみたいに。
「…‥っく、うう」
 泣き声に気づくのは、それほどかからなかった。
 ベッドに近づく。
 そんなに声を殺して。
 布団が震えてる。
 言葉を探す。
 なんて、言えばいい。
 なんて……
 ギチッと唇を噛んだ。
 血の味がする。
 切れたそこを触れないように力を抜く。
 痛みもない。
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