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秒針と時針のように
第4章 認めたくないこと
 十四年間。
 いや。
 忍と会ってからだと十年間、か。
 溜まりに溜まった何かが溢れていく気がした。
 視線が固まり、指の先すら動かせないというのに、体の中では絶え間なく波打っている。
 激しく。
 激しく。
 ためしに首を傾けてみた。
 ギリギリと音を上げている。
 なんだろう。
 自分の体のはずなのに。
 自分のアパートにいるというのに。
 この、浮遊感。
 不快感。
 ギシリ。
 忍が動いた音に振り返る。
 全身が軋む。
 布団の膨らみを眺める。
 そこに、忍がいる。
 寝ている。
 泣いている。
 体を震わせて。
 あの教室にいた体のままで。
 脳がショートしている。
 ああ。
 頭が痛い。
 忍がそこにいる。
 それだけなのに。
 生唾を呑む。
 ふっと体が楽になった。
 拳を握る。
 小指から親指まで順番に、ゆっくりと。
 爪が掌に食い込むのを感じた。
 眼を細めてベッドに近づく。
 手を伸ばす。
 指が布団に触れ、無意識にそれを掴む。
 一瞬抵抗を感じたが、勢いよく手をスライドさせるとそれが舞い、そこにいた忍が現れた。
 オレを見上げて。
 何かを訴えるように。
 涙を流しながら。
 眼を見開く。
「た……く?」
 バサリ。
 何重にも重なって布団が落ちた。
 片膝をベッドに乗せたまでが意識の範疇で、気づくと目の前に忍がいた。

 オレの、下に。

 細い両腕をオレに掴まれて。

 茫然とした顔で。

 長い睫毛が濡れて、いつもより目が大きく見える。
 酷く泣いた跡すら、その陰影を深める化粧のようで。
「なんだよ……おい」
 わざと気丈な声で。
 忍はそう唇を震わせながら問うた。
 けどすぐにその顔からオレを気遣う表情は消え失せて、力の限りオレから逃れようとした。
 肘を曲げて腕を振り払おうと。
 膝を蹴り上げて押しのけようと。
 ギッと睨みを効かせて。
 下唇を噛み締めて。
 なんだよ。
 その眼。
 まるで……

 まるでオレが、お前を傷つけてるみたいじゃないか。
 忍。
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