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秒針と時針のように
第5章 一周してわかること
 乱れた髪を掻き分け、顔を両手で覆う拓の足を踏んだ。
「さ・て・と。覚悟は出来てんだろうな、拓?」
 結城が信じられないほどのスピードで逃げて行った。
 周りの野次馬も距離をとる。
 その中心で、拓はぶるぶる震えていた。
「っく……ぶっ、ふふ」
「ナニ笑ってんだよ、てめえ」
 拓は涙を浮かべた目で俺を見上げた。
 それから震える指で俺を指すと、笑いをかみ殺しながら言った。
「し、忍の白髪……傑作すぎる」
 こいつはバカだ。
 正真正銘のバカだ。
 わかりきってたことだが。


 安心した。


「あれっ。忍?」
 俺の異変に気付いた拓が立ち上がる。
 肩を掴んで。
「……泣いてる?」
 囁かれた瞬間拓に抱きついた。
 それを見たクラスメイトが爆発する。
「おいっおい! 拓、てめぇええええ」
「プリンセス忍に何しやがったゴラア」
「何抱きつかれてんだ、薬盛っただろ」
「黙ってろ! バカども!」
 好き勝手叫ぶ生徒に一喝する拓の胸元で毒づく。
「……バカはてめえだ」
 チョークの香りにむせ返りそうになりながら、目を瞑る。
「う、裏庭行くか?」
「いや、大丈夫」
 戸惑いながら言った拓の胸を押し返す。
 離れた俺はクラスを見渡してから言った。
「いいか、てめえら! 俺は行方不明になんかなっちゃいねえからなあっ。勝手な噂立てて一人で泣いてたこのバカの始末はてめえらに任せる!」
「えっ、ちょ」
 焦る拓にウィンクする。
 死ねって笑顔で。
「よっしゃあああ! 報酬はプリンセス忍からのキスらしいぞ!」
「まじですかぁああ!」
「言ってねーよ、ハゲ」
「拓をぶっ殺せぇえええ」
「忍を泣かせた罪は重いからなっ」
「お前ら、ふざけんなぶっ。おい、誰だ今チョーク投げた奴!」
 追われて教室から逃げていく拓を笑って見送る。
 少し落ち着いてから結城がそろそろと近寄ってきた。
「いいのか? あれで。あいつ結構落ちてたんだぜ?」
「いいんだよ。あれで」
 ほら。
 この学校を嫌いにならずにすんだぜ、俺は。
 拓。
 てめえと卒業したいからな。
「結城」
「ん?」
「てめえ、知ってて俺を先に教室に入れたよな?」
「あ……その」
「ハンカチ濡らして持って来い。この髪元に戻せ」
「はい!」
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