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秒針と時針のように
第6章 時針が止まる時
 オレは忍のいない大学に通う。
 母さんが死んだとき、世界が急速に狭まっていってオレは必死に忍に同じ大学に入るよう頼み込んだ。
 学生証を警備員に見せて車を駐車場に乗り入れる。
 自転車で学校に通っていた日々が過去になりつつある。
 あのとき忍はなんて言ったっけ。
 ミラーを見ながらバックする。
ー今の拓は拓らしくなくてムカつく。母親が死んだからっててめぇが変わって情けなくなってどうすんだよ。大学に行くのは親が願ったからだろうが。俺は俺で行かない理由があるんだー
 バタン。
 車から降りてドアを閉める。
 朝の冷たい澄んだ空気を吸う。
 肺を浄化するように。
ー同じ東京にいるんだ。それでいいだろうがー
 あのときは嫌がったけど、まさか同じアパートになるなんてお互い夢にも見なかっただろう。
 夢にも。
「たっくん?」
 校舎に入ってキャリアセンターに書類を提出しようと歩いているときだ。
 聞き覚えのある声に足を止める。
 安そうな背広姿の細身の男。
 ワックスで固めた髪に、インテリっぽいフレームの眼鏡。
 オレは一瞬誰だかわからなかった。
「チョー久しぶり!」
「……結城? 嘘だろっ」
「おれだよ。うわ、何年ぶりだ」
「二年だな。お前も就職したんだ。センター受けてなかったか」
 結城は眼鏡をくいっと上げて笑った。
「大学辞めた。今はエンジニア系の企業に入ってる」
「え? まじか。あとその眼鏡……」
「あ、ああ。伊達だよ伊達。頭いいインテリに見えるだろ」
 フレームを持ち上げてあっけらかんに。
「やっぱな」
 見かけを気にする結城らしい。
「そんなことより忍はどうしたんだ?」
 今、どこにいるじゃない。
 今のオレたちの関係を訊いているんだろう。
 即答は出来なかった。
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