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秒針と時針のように
第6章 時針が止まる時

 ガッと結城の肩にすがる。
 オレは病室にいた。
「忍見てないか?」
 結城が顔を歪める。
 部屋のすみには看護師が控えていた。
 オレの腕には注射痕があった。
「拓……おれだって認めたくないけど忍はもう……」
「オレ忍にちゃんと会って言わなきゃなんだ。伝えなきゃなんだっ。だってオレが迷ってばっかだったからあいつは待ちくたびれて遠くにいこうとしてるんだ。そんなん止めなきゃダメだろ。ダメに決まってる。大体あいつは」
「拓、落ち着いて聞け」
 ピタリと口が止まる。
 舌が不満そうに咥内でのたうつ。
 オレは結城をじっと見た。
「ここに来る前のことを思い出せ。なにがあった」
「忍見てないか?」
 結城が手を下ろした。
 目を見開いて。
 ゆっくり後ずさる。
 首を振りながら。
 涙を浮かべながら。
 なに泣いてんだよ、発情期。
 そんな毒が聞こえる。
「あぁあ……おれにだって無理ですよ、先生。こいつに忍がいないことを伝えるなんて無理ですよ……っ。おれだって信じられないんですからっ」
 カーテンの向こうに誰かいるのか。
 頭を抱えながらそっちを見て叫ぶ。
 結城は大きく息をすってオレにまた歩み寄った。
「ゆう……」
「忍はもういないんだ」
「帰ったの?」
「どこにもいないんだ」
 感情の抑揚のない声で。
 ポロポロ涙を溢しながら。
 オレは戸惑った。
 結城の手を握る。
「泣くなよ、どうしたんだよ」
「逆に言わせてくれ。泣いてくれよ……頼むから。泣いてくれよ、拓っ!」
「なにがだ?」
 バンと頬に衝撃が走る。
 結城はたった今打ち付けた掌でオレの襟首を掴んだ。
 じんじんと痛みがくすぶる。
「なにすんだ」
「なあ、たっくん……人ってびっくりするほど脆いよな」
 バチリと結城と視線が重なる。
 そしたら突然涙が溢れてきた。
 息が上手く出来ない。
 吸っても吸っても肺に入ってこない。
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