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秒針と時針のように
第6章 時針が止まる時
「忍……本当にいなくなったんだぜ。たっくん。本当にもういないんだ……あり得ねえな、こんなの。あいつ、顔にほとんど傷なかったし、だから……」
 結城がオレの布団に突っ伏す。
 その背中が震えてる。
「結城……泣くなよ」
 それを言った瞬間結城は声を上げて泣き始めた。
 嗚咽し、感情を爆発させて。
 どうしたらいいか、わかんなかった。
 心のどこかで冷静な自分が叱咤する。
 認めろって。
 けど、ナニを。
 忍がいなくなった現実?
 唯一愛した人が死んだこと?
 もう言葉を交わせないこと?
 一体ナニを、どこまで。
 世界はどこまでもオレを殺そうとしてくるってのに。
 どうやって耐えきればいいのかわからない。
 忍がいない。
 いない。
「忍が……いない」
 結城が顔を上げる。
「たっくん……」
「結城。忍がいないんだ。伝えたいのに、いないんだ。忍にオレ謝ってもないんだ。沢山酷いことしたのに。忍にお礼言わなきゃなんだっ。沢山……沢山っ。けど出来の悪い芝居がずっと続いてるから、邪魔するから……忍の背中に追いつきやしない! カミサマふざけて見てるんじゃねえよっ」
「たっくん……」
 支離滅裂だ。
 思考さえ。
 だって考えてくれ。
 時針が止まったら、秒針は何周回ったって無駄なんだ。
 どうして回り続けられる。
 どちらか欠けたらダメなんだ。
 早く嘘だと言ってくれ。
 そんなの信じてもないのに。
 あー。
 今だけでいいから。
 頼むから。
 忍のそばに行かせて。
「結城。ちょっと一人にしてくれ」
 結城が身を起こし、「わかった」とだけ云って出ていった。
 白い扉が締まる。
 なあ、もういいだろ。
 忍。
 出てきてくれ。
「忍」
 声が病室に響く。
 なんて情けない声。
 鼻を啜って涙を拭く。
「もう一回だけ、夢で……」
 無為。
 閉じようとした目を開く。
 けど、オレは弱いから。
 無理矢理瞑る。
 あの白い空間を思い浮かべた。

 夢は、見なかった。
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