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Gemini
第10章 20cm
「口数は少ないけど、優しいでしょ?かずくん」

「あ、はい、そうですね。そう思います。」

「初めて連れてきたと思ったら、こーんなかわいらしいお嬢さんで、ホッとしたわー」

「化粧バッチリの派手派手な子じゃなくて良かったじゃない?」

「ホントホント!ギャルじゃなくて安心した」

「かずくんのこと、よろしくね」

「末永く、お願いしたいわー」


ドアを開けて入ってきたのは、お母さんとお揃いの黒いシャツとズボンに着替えた和樹だった。胸に赤い字でFavoriと刺繍されてるのは、お店の名前だ。

「ケープ、着けるよ」
私の後ろに立った和樹は、手際よく広げて私に着せた。首にタオルを巻くときも、苦しくないか確認してくれて、本物の美容師さんみたいだった。

髪をとかしてくれている間も、真剣な顔をしてる和樹から目が離せなかった。

「よし、と。じゃあ、シャンプー台の方に」

お店の奥の方へと案内されて、シャンプー用の椅子に座る。
「倒すよ?」
「うん」

そう言ったのに、なかなか椅子が倒れない。
「ん?どうしたの?」

見上げた和樹は、少し顔を赤くしてまた唇を噛んでいた。
「ごめ…ちょっと緊張しちゃって。」

「そんな。私だよ?お客さんじゃないんだから」
「奏だから…緊張する」
「なにー?それ?」

添えられた和樹の手に頭を預けながら椅子が倒されていく。
「高さ、平気?」
「うん」
目を開くと思ったよりも近くに和樹の顔があった。


「お湯熱かったら言って」
「はい…」

とても優しく丁寧に髪を洗ってくれた。
きっとすごく気を使ってくれたに違いない。

「大丈夫?」
「うん、気持ちいい」
「そ…か…」

さっきよりも近くに和樹を感じて、目を開けることができなかった。
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