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Gemini
第12章 夏が始まる
「あの日の…また明日って別れてから、一回も合わなかったからさ。どうしてるか気になってたんだ。」

「あっ…ご、ごめんなさい💦」

確かに、あれ以来あそこでは勉強してない。毎日精一杯で、正直なところすっかり忘れてた。

「いいよいいよ。きっとスパイシーな毎日を過ごしてるんだろうしさ。あー!懐かしーなー!」

悠木さんは上を向いてコーヒーを全部飲み干した。

「スパイシー…」

(確かにね。ここのところ刺激的な経験はたくさんしてる。これって今だからってことなの?)

「やっぱりイマイチだったな、これ」
見たことも無いパッケージのコーヒー缶を改めて観察する。

「新商品、ですか?」
そうそう。悠木さんは新しいものを試す派の人だった。

「うん。ま、こうやって単調な日々にスパイスを足してる訳さ、おじさんは。」

「おじさんって」
私が笑うと、笑い返した。
家に向かって歩き出す。

「いつでもLINEして?また喋ろう」

「あ、はい!」
別れ際、そう言われて返事をしたものの、ふと思い出す。
「…あ、でも奥さん……結婚してるんでしょ?」

「してるけど、今は…ってか、ずーっと不在なの。だから気にしなくていいよ。」

「不在?」
(そんなことってある?)

「あー…えと…家出中って感じ」

(もしかして、実家に帰らせていただきますっていうアレ?どうしよう、余計なこと…)

「あぁ…ごめんなさい…」

「いやいやいやいや、気にしないで。もう平気だからさ。って訳で、時間もタイミングも気にすることないからね。」

頭をポンポンとされた私は、逆に悠木さんをポンポンってしてあげたくなった。もちろんできないけど。
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