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Gemini
第5章 勇気
大きな口を開けてハンバーガーにかぶりつこうとした瞬間、こっちを向いて近づいてきた人と目が合った。にっこり笑ったその人は、初めて会った時と違ってスーツじゃなかった。

「こんにちは」

「こ、こんにちは」
大きく開けた口を一旦ハンバーガーから離して、挨拶をする。

「早いね、試験中?」
私の隣の席にトレーを置いて、重たそうなバッグを下ろした。

「はい。今日が一日目で…」
「どう?手応えは?」
「まあそれなり…ですかね?」
にこやかに話してるものの、眼鏡越しでも分かる目の下のクマ。
(疲れてそうだな…)

「あれ…?眼鏡…かけてましたっけ?」
「あぁ今日はオフだからね。仕事の時はコンタクト入れてるんだけど。」


「じゃ、いただきます」
「いただきます」
テーブル同士は微妙な距離だけど、一緒に食べ始めた。新しいメニューに必ずトライするというその人は、今日も新しく出たハンバーガーを頼んでいた。いつも同じもの頼んでしまう私からすると、少し羨ましい。

ムシャムシャとあまりにも美味しそうに食べてるから、つい聞いてしまった。
「それ…どうですか?」
「これ?うん、うまいよ。そっちは?」
「これしか食べたことなくて」
「うまいよね、それも。」

二人で同じ方を向いて食べている。
なんてことはない話をしながら。

「よし、じゃ、頑張って」
「はい」
お互いに自分のことを始めて15分も経たないうちに、その人は眠ってしまった。肘をついて頭を支えてはいるけれど、コクコクと何度も落ちかける。

英熟語を書いた単語帳を捲っていた手を止めて、その気持ちよさそうな寝顔についつい見入ってしまう。

(いったいどんな仕事をしているんだろう。)
(資格試験って、なんの資格だろう。)

頭を乗せていた手を見ると、その人は指輪をしていた。
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