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Gemini
第23章 バランス
「なんでもないよ、じゃ」
掴まれてるのを離そうと手をかけると、更にその上から和樹の手が掴んだ。
「ちょっ…まじ待てって」

ルカがこっちを見てる気がする。
ルカに対するモヤモヤと、和樹と一緒にいるところを見られてしまったドキドキと、いつまでもルカから離れない女の人に対するイライラで、頭はもうパンク寸前だった。

「ほんとに。大丈夫だから。帰って。」
和樹の手をどかして、ルカの方には目を向けないままマンションに向かった。通り過ぎるときも、ルカは何も言ってはくれなかった。

(あの人…絶対前に見た人だ。またしたの?)

脆くも崩れ去った独占欲と胸が痛くなるほどの妬ましさ、そして鼻の先がつーんとする悲しさに、体の中がドロドロしていく。

息をするのも辛い。

ポチポチと何度もエレベーターの上ボタンを押す。
何度も、何度も。

早く来て…ルカが追いかけて来ないように。涙が溢れ出てしまわないうちに、早く…早く…。

エレベーターに急いで乗り込み、今度は閉じるボタンを連打した。
扉が閉じきる前にポロッと溢れたけど、すぐに指で拭った。

「ダメダメ…まだダメ……まだ…」
呪文みたいに呟いて言い聞かせる。

ふぅぅと細く息を吐くと、ほんの少しだけ胸の痛みが軽くなった気がして、深呼吸をする。
扉が開いた途端、堪えていた涙は一気に溢れ出てしまった。


そこには、ノアが立っていた。
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