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アンケートから生まれた Love story
第12章 痛みを、強さに
思い出しそうになった灰色の過去を
再び吹き抜ける夏の風が、濁してくれる。
「……毒親なんて居ねぇほうがマシって思うだろうけどな。
存在すら知らないってのもエグイもんだぜ」
押し黙った俺を見て、瀬名さんが口を開いた。
「自分が何者なのか理解できないっつーのは、心底気色が悪い」
「……!」
「出身の土地がその場所だったってだけで、俺はミックスだ。
ルーツを虱潰しに調べたが、発端がどこで何の国のかも特定できなかった」
周りに人がいないことをいいことに
スーツのポケットからライターが取り出される。
「……ふとした瞬間に、馬鹿馬鹿しくなって
迷信だと、幾度となく忘れようとしたが無駄だった」
「……!」
「無かったことにしたくても、知らねぇふりしても意味がない。
血っていうのは生まれ持ったものだ、当然放棄なんかできない」
「………」
「心臓から全身の細胞に行き渡っていて
どこかに混じった ‟ 悪霊 ” の流れを確実に感じる」
火をつけたそれを持つ腕を、顔の前に持ち上げる瀬名さん。
ゆらゆら揺れるその灯を俺も見つめた。
「平和な国、平凡な町に放り込まれても、平穏を感じることは一度も無かった。
どっから不正入国してんのか知らねぇけど
毎回現れる残党の過激派に、輸血してやりゃ楽に終わっていただろうけど
……出生の秘密を自ら暴くまでは、死ねないと思った」
「……っ」
「だから
手首を切る代わりに、耳に針を刺して精神を保ってたんだ」