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飛べないあの子
第1章 再会
(なんであの人が、こんなところに・・・・・・・・)
凛の勤める予備校の職員室で、校長が皆に集まるように声をかけた。
講師や事務員がぞろぞろと歩いて前方に集まる。
四月に家庭の事情で辞めてしまった数学講師の代わりに採用したと紹介されたその男を、中谷凛は眉間に皺を寄せながら凝視した。
凛は、何かの見間違えではないかと視線を反らした後に、もう一度その長身の男を見た。
背筋を伸ばした綺麗な立ち姿は、彼の育ちの良さを表している。
黒く艶やかなストレートの髪。襟足は短くすっきりとしていて清潔感があり、前髪の隙間から見える額は、わずかに丸みを帯びて綺麗な鼻梁へと続いている。切れ長の涼しげな目元と薄い唇は昔と変わっていない。
身長に対して顔が小さく、白い首から顎のラインの美しさは王子様然としていて、二次元の世界から出てきたかのようだった。
「西辻慧です。よろしくお願いします」
凛は視線が合わないように、さっとうつむいた。
他人の空似でもなかった。やはり本人だ。
いつも表情がないとか、クールでドライだなどと言われる凛もさすがに狼狽した。
みんながパチパチと歓迎の拍手をする中、凛だけ動けないでいた。
「うわー。めっちゃ育ちが良さそう。シュッとしてて・・・・塩顔イケメンてやつですかね。てか、肌、この距離からでも綺麗なのがわかるってすごくないですか!?」
「彼ね、東大中退してるんですって。なんでこんな中堅の予備校になんか来たのかしらね。アルバイトよ?」
「え?東大中退ですか?もったいなーい・・・・」
凛の前にいた事務員の女性二人がこそこそと話していた。
(東大中退?そんなわけない。だって、あの人の家は・・・・・・)
凛はそんなわけないと心の中で何度も呟いた。
気が付いたら挨拶が終わっていた。みんな各々の席に戻っていく。
握りしめた手にじっとりと汗をかいていた。
凛はそっと職員室を出てトイレに向かった。
手を洗いながら気持ちを落ちつけようとする。
ハンカチで手を拭きながら鏡の中の自分を見る。
鎖骨までの長さの黒髪は、ゆるやかなパーマでうねり、前髪の隙間から意思の強そうな眉がのぞいている。
せっかく目が大きいのに、表情が乏しいからもったいないとよく言われる。
しかし、今、鏡に映る目は何かに怯えているように見えた。
凛の勤める予備校の職員室で、校長が皆に集まるように声をかけた。
講師や事務員がぞろぞろと歩いて前方に集まる。
四月に家庭の事情で辞めてしまった数学講師の代わりに採用したと紹介されたその男を、中谷凛は眉間に皺を寄せながら凝視した。
凛は、何かの見間違えではないかと視線を反らした後に、もう一度その長身の男を見た。
背筋を伸ばした綺麗な立ち姿は、彼の育ちの良さを表している。
黒く艶やかなストレートの髪。襟足は短くすっきりとしていて清潔感があり、前髪の隙間から見える額は、わずかに丸みを帯びて綺麗な鼻梁へと続いている。切れ長の涼しげな目元と薄い唇は昔と変わっていない。
身長に対して顔が小さく、白い首から顎のラインの美しさは王子様然としていて、二次元の世界から出てきたかのようだった。
「西辻慧です。よろしくお願いします」
凛は視線が合わないように、さっとうつむいた。
他人の空似でもなかった。やはり本人だ。
いつも表情がないとか、クールでドライだなどと言われる凛もさすがに狼狽した。
みんながパチパチと歓迎の拍手をする中、凛だけ動けないでいた。
「うわー。めっちゃ育ちが良さそう。シュッとしてて・・・・塩顔イケメンてやつですかね。てか、肌、この距離からでも綺麗なのがわかるってすごくないですか!?」
「彼ね、東大中退してるんですって。なんでこんな中堅の予備校になんか来たのかしらね。アルバイトよ?」
「え?東大中退ですか?もったいなーい・・・・」
凛の前にいた事務員の女性二人がこそこそと話していた。
(東大中退?そんなわけない。だって、あの人の家は・・・・・・)
凛はそんなわけないと心の中で何度も呟いた。
気が付いたら挨拶が終わっていた。みんな各々の席に戻っていく。
握りしめた手にじっとりと汗をかいていた。
凛はそっと職員室を出てトイレに向かった。
手を洗いながら気持ちを落ちつけようとする。
ハンカチで手を拭きながら鏡の中の自分を見る。
鎖骨までの長さの黒髪は、ゆるやかなパーマでうねり、前髪の隙間から意思の強そうな眉がのぞいている。
せっかく目が大きいのに、表情が乏しいからもったいないとよく言われる。
しかし、今、鏡に映る目は何かに怯えているように見えた。