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飛べないあの子
第5章 EpisodeⅤ
十人ほどの大人数で店の中に入ってきた。
先頭に慧に似た背の高い壮年の男性と、高そうな着物を綺麗に着こなしている美しい女性が並んで歩いている。

慧の両親だった。
慧の父は小さな男の子を抱きかかえていた。
愛しそうな顔で子供と何か話をしている。
慧のいない、西辻家の平和な風景がそこにあった。

凛の胸がぎゅうっと締め付けられる。

西辻一家は奥の個室へと案内されて消えていった。

慧は今頃あのマンションで一人で何をしているのだろう。

凛は初めて自分以外の人を想って、猛烈な孤独を感じた。

一緒にいてあげたい・・・・・。

強い気持ちが芽生えて凛の心を奮い立たせた。
凛はいてもたってもいられずに立ち上がった。

「・・・・凛?トイレ?」

望が凛を見上げて尋ねる。

「ごめん・・・・。私、大事な用があること忘れてた」
「え?」
「帰る。ごめんね」

母が険しい表情をしている。
母が何かを言う前に凛は鞄から封筒を渡した。

「お母さん、ごめん。これ、今日明日で使おうと思ってたやつ。お母さんに渡しておくね。自由に使って」

現金を手渡されて、母の表情が一瞬和らぐ。しかし、体裁のためか怒った表情を保ったまま不貞腐れて言った。

「大事な用って何よ。仕事休みじゃないの?」
「ごめん」

凛はお年玉の袋も取り出して、望の子どもたちに手渡した。
子たちは大喜びしていたが、すぐに望に取り上げられていた。

母と姉にもお年玉を渡す。母はそれですっかり上機嫌になっていた。
また受験期間が終わったら来ると言って出口へと向かう。

望が見送りに一緒に出口に来てくれた。

「もしかして男?」
「違うよ」

凛は素っ気なく言うと、急いで財布から二万円取り出した。

「ごめん。お母さんのことよろしく」

お正月自分の代わりに母の相手をしてもらうのだから、このくらい安いものだ。
望は飛び上がらんばかりに喜んだ。

「大丈夫よ。まかせて」

凛は手を振ると急いで駅に向かった。

あまりに必死で、新幹線に乗り込んだところで慧に何も連絡せずに向かおうとしていることに気が付く。
電話をするが出ない。メッセージを送るにも、何と送っていいのかわからない。
直接会ってこの気持ちを伝えたかった。

大晦日の新幹線は混んでいて座れなかったが苦ではなかった。
慧のことをずっと考えていた。
慧に今すぐ会いたかった。
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